2. 経営理念
「つくる人を増やす」
経営理念は会社にとって非常に重要なものである。
……と言われても、いまひとつ実感がわかない。というのが正直なところじゃないでしょうか。
カヤックも、創業当初から経営理念にこだわってきましたが、納得する経営理念をつくり出せたのも、経営理念の重要性に本当の意味で気づきはじめたのも、創業から随分経ってからです。もはや、創業当時につくった経営理念はどこにも残っていません。
創業時点で、その会社が大切にしたいことを言語化するのは、とても難しいことです。なんせ、自分の会社がどのようなことにこだわっているのか、どういうことが強みなのか、創業者自身でも最初はなかなかわからないものだからです。
なんとなく体のいい言葉を並べてみても、形骸化してしまう。よくあるパターンです。あなたの会社の経営理念もそのようになっていないでしょうか。
でも、形骸化したのは経営理念を大切にしていないからではなく、経営理念に力がないからかもしれません。
本当に力のある、いい経営理念であれば、それを突き詰めるだけで、会社にイノベーションを起こすことも可能です。本来、経営理念にはそれぐらいの力は余裕であります。カヤックでは、何度も理念と対峙してきてそう思うに至りました。
そんなカヤックの現時点(2021年7月現在)の経営理念が、「つくる人を増やす」です。
企業理念と経営理念
まず、カヤックで考える2つの言葉の定義を説明します。
企業理念は、企業が目指す究極の目的、そして、経営理念はどのようにしてその目的を実行するかの方法論。というイメージです。
カヤックの企業理念は「面白法人」であり、経営理念は「つくる人を増やす」です。
「世の中を面白くしたり、みんなが面白く生きるために貢献する」ことがカヤックが存在する目的。それを実現するために「つくる人を増やす」という方法をとる。つまり企業理念が最上位概念であり、その下に経営理念があります。
本来、会社は人の幸せを実現するためにつくられたものですから、その究極の存在目的となる企業理念は、だいたい同じようなものになるはずです。でも、人を幸せにするための方法、すなわち事業は、それぞれの会社で違います。その会社ならではの方法論が経営理念なのだと思います。
企業理念は存在理由
「人は、何のために生きているのだろう?」
この問いに、答えられる人は決して多くはありません。そもそも、答えなんてないのかもしれないという人もいます。ですが、この問いに迷いなく即答できる人は強いと思いませんか?
自分はスポーツを通して世界を平和にする使命がありますとか。自分は恵まれない子供達に教育を行き届けさせますとか。たとえそれが思い込みだとしても、信じる使命がある人は、強い。
そして、その使命には、できれば自己中心的ではなく他者のためにという思いが入っていたほうが、より強く思い込めます。だって、人間、最後は感謝されて死にたいってよく聞きますものね……。
ここまでの話。おそらく法人も一緒です。カヤックという法人が、何のために生きているのか? この問いに即答できた方が強くなります。そして、その答えの中には、他者への思い、すなわち法人として社会に貢献するんだという思いが込められていた方がよい。むしろ法人こそ、理想だけを突き詰めてもいい存在です。
ちなみに、よく法人は利益をあげるために存在するという表現をする方がいますが、正確に言えば、そうではなく、利益は、社会貢献を達成するための手段であり、社会に貢献した結果の対価です。そう思わないと、強く信じることができません。
そして、カヤックという法人が何のために生きているのか? この問いの答えこそが、まさに企業理念だと思うのです。
経営理念はその会社ならではの方法論
人の価値観が一人ひとり違うように、法人の価値観も一社一社違います。価値観が異なれば、社会に貢献する方法も異なります。音楽の会社なら「音楽でラブ&ピースな世の中をつくる」とか。スポーツの会社なら「スポーツで社会を健康にする」とか。ここまで踏み込むことで、その法人にしか言えない言葉になります。
では、カヤックは何のために生きているのでしょうか? そのヒントは、最初につくった言葉にありました。それは「面白法人」というキーワードです。
「1. 面白法人に込めた思い」のページで、最終的には僕らは、世の中に面白がる人を増やしたいという思いがあることを白状しました。ですから、経営理念を「世の中に面白がる人を増やしたい」とする手もありました。
ですが、あまり面白面白というのもしつこいですし、もう少し踏ん張って、どうやったら面白がる人が増えるのかを考えてみたのです。そこで行き着いたのが、「つくる人を増やす」という言葉でした。
「つくる人を増やす」
つくる側になることは、主体性をもつということ。
たとえば、会社を面白がるのに一番効果的な方法は何でしょうか。
それは、「この会社は自分がつくっている」という状態になることです。どうも人間は、他人に言われた通りにするよりは、自分が主体的に関わっているときのほうが楽しくなる。どうやらそういう傾向があります。
だから、カヤックでは、社員自身がこの会社をつくっていると感じてもらえるような工夫をしています。みんなで社長になったつもりで合宿に行ったり、リーダーを交代制にしたり、社内の情報をできるだけオープンにしたり。
ちなみに、これは何も会社に限った話ではありません。例えば住んでいる地域。その地域の活動に参加し、自分がその地域をつくっているという実感がもてれば、どんどんその地域が好きになり、楽しめるようになります。
つくることは、自分を見つめること。
人は、つくることを通して、自分が「何を美しいと感じ、何を醜いと感じるのか」「何が好きで、何が嫌いか」という価値基準を知るためのヒントを得ます。
そして、あらゆることを自分のモノサシで見つめられるようになれば、人の受け売りではない、自分なりの、幸せになる方法が見えてくる。だから、つくる人を増やすことは、一人ひとりが幸せになる社会につながっていくような気がするのです。
つくることは、誰かに与えること。
さらに、少し限定的ではありますが、つくるという行為には、人を楽しませ、感動させる力があります。つくる先には、相手がいて、反応があります。
人は、人との関わりの中で幸せを見つける生き物だからこそ、つくることを通して、「他人の喜びが、自分の喜びになる」という感覚を知ることができます。そして、その経験は積み重なり、いつか、「社会の喜びを生み出そう」という気持ちへとつながっていく。なんだか抽象的な感じではありますが、とにかく、つくる人がひとりでも増えれば、社会はきっとよくなると思っています。
経営理念を、社員全員が暗唱できる組織にする。
カヤックの経営理念は、「つくる人を増やす」です。つくる人を増やして、カヤックは社会に貢献します。これくらいの短さなら、誰でも覚えて即答できそうです。
忘れないために、毎日朝礼で復唱して暗記するのもひとつの方法ですが、今の時代的には、シンプルに一言で、みんなが覚えられるものにしたほうが効果的です。
そして、短いぶん、解釈は人それぞれに委ねられます。自分なりの経営理念の解釈があってよい。一人ひとりが考えることで、クリエイティブであり続けられる。
だからこそ、この経営理念になりました。
カヤックという法人が、どこに進んだらいいか迷った時、それを思い出せば、ちゃんと道しるべになる言葉。僕ら自身を正しい方向へと導く羅針盤。
それが、この経営理念。
つくる人を増やす
自称「理念オタク」のカヤック代表柳澤が、いい経営理念を10個選んでみました。