2019.05.18
#クリエイターズインタビュー No.55“バカだからこそ面白いものをつくれる” 新感覚エンターテインメント「NO BORDER」ができるまで
2019年7月から大阪城COOL JAPAN PARK OSAKA SSホールで開催される超新感覚エンターテインメント「NO BORDER」。最新型3Dスキャナで「あなた」のアバターを会場で生成し、ステージ上でそのアバターが世界中の人と一緒に踊るライブエンターテイメントです。演じるのは、が〜まるちょば、千手観音かずここと森三中黒沢、そして「あなた」と世界中の人たち。振付はDA PUMP TOMO&KENZO。
世界中に「国境」が建設されている今、 日本を訪れたすべての国の人たちが参加型で楽しめる「国境なき」最先端エンターテインメント「NO BORDER」。その企画・演出を手がけた「電波少年シリーズ」「ウッチャンナンチャンのウリナリ!」などでもおなじみのヒットメーカー“T部長”こと土屋敏男さんに、制作に込めた思いを伺いました。
「国境なき」最先端エンターテインメントのコンセプトが生まれるまで
もともと吉本興業の大﨑洋社長と親しくさせていただいているんですが、カヤック柳澤さんと3人で食事した時、大崎さんから「大阪城にシアターホールつくるから、土屋さん、なんか考えてよ」と頼まれたのがきっかけですね。訪日観光客の人たちが日本語がわからなくても楽しめるエンターテイメントがほしいと。僕だけじゃなくて、何十人かに声をかけていたと思いますが(笑)。
もちろん、その時点で「NO BORDER」のコンセプトはまったくなくて、ただテクノロジーを使った新しいエンターテイメントの形を漠然と模索していました。もともと僕は「電波少年」の時もハンディカメラひとつ持って猿岩石とロケしたり、CGやVRを使った演出もこれまでずいぶんしてきたり、テクノロジーの力を使った新しいコンテンツの可能性をずっと模索しているのかもしれません。
AR三兄弟とは、いつか仕事してみたいなと思っていたんですが、たまたま三兄弟長男である川田十夢さんのラジオにゲストで呼ばれて。その時「見に行きませんか?」と誘われて渋谷にあった独メーカーのショールームで、川田さんと一緒に3Dスキャナを見たんです。自分を立体でスキャンしてアバターをつくり、動かしたり走らせたりできる。何か面白いことができるんじゃないかと思って、パナソニックで3Dスキャナを開発している齋藤浩さんに会いました。
パナソニックは4年前、ラスベガスで、お客さんをスキャンしてアバターをつくり、そのアバターが歌舞伎の型を演じるということをしていたんですね。ただ当時はスキャンしてからアバターを形成するまでに24時間かかっていた。だから連泊しないと自分のアバターが見られない。でも今は5分でできるんだと。
じゃあ、これを使って観客のアバターをたくさんつくって、観客みんなが参加するライブを上演できますよね? って聞いたら、100人200人をいっぺんにスキャンするのは大変だから、ライブは無理だというんです。別に観客全員でなくてもいい、客席をS席とA席に分けて、S席の人だけアバターをつくれるようにしたらいいですよね? って聞いたら「たしかに、それならできますね」と。
それから急ピッチで進みました。劇場のサイズからスクリーンの大きさを決めて、等身大のアバターがスクリーンに並ぶことを考えると、じゃあ一度にアバターがライブできるのは40人かなと。で、S席40人、A席200人。ライゾマティクス、AR三兄弟、カヤックに声をかけました。
川田さんとは、主に技術面の打合せが多かったです。ARで何が実現できるのか、アイデアや疑問を投げると、こんなものもあります、あんなのもあります、とボンボン打ち返してくれる。ライゾマティクスの齋藤精一さんとは、キャッチボールしながらコンセプトをつくり上げていった感じ。コンテンツの企画制作をカヤックと進めていきました。
全力で走り続けた人間だけが、新しいものをつくりだすことができる
僕、「電波少年」も今回もそうですが、とにかくたくさんアイデアのボールを人に投げるんです。「これ、面白くない?」「これやったら、今までなかったものがつくれるよね」って。で、投げると同時に、自分も走り出す。だからボールを受け取った人は、その瞬間、一緒に走り出さなきゃいけない。相手も夢中で走ってくれて、初めてキャッチボールになる。
僕の師匠はテリー伊藤と萩本欽一で、僕自身、彼らからボールを受け取ったら、とにかく背中を追っかけないと、ボールを投げ返すことさえできなかった。二人とも、人にボールを投げたっきり、全速力で走っていく人だったから。ボールをやりとりしながら、というよりも、ボールを投げ返すためにひたすら走って、ゼーハーしながら「あれ、一体なんの競技をしていたんだっけ?」みたいな感じ。
「こういうの面白くない?」っていった時、「面白そうですね」と乗っかってくれる人と、できない理由ばかり並べる人がいますよね。僕は前者のタイプの人と面白がって働きたい。どこに行くかわからないくらい、めちゃくちゃ全力で走り続けていれば、とにかくどこかのゴールには辿り着けると信じているから。
カヤックはね、バカな人を許容しているところがいいですね(笑)。バカを飼っているんだよ、ちゃんと。なんか、バランス感覚おかしいけど、ひとつのことに突出した才能がある人とか。たぶんマネジメントがすごいんだと思う。頭良くなる方が楽でしょ、組織の共通言語とかちゃんとあった方が。その方がちゃんと働いている気もするしね(笑)。
でも、すごい無駄なことも含めて「面白くなくちゃダメ」とか「つくる人を増やす」といっているでしょう。組織の合理性を優先してバカな奴を駆逐していくのって、ある種、すごく資本主義的な価値観なんじゃないかな。効率重視の考え方。でも、すでにあるものをきちんと動かすには従来型のマネジメントがいいかもしれないけど、誰も見たことのないものをつくりたいと思ったら、バカを許容することが必要だと思うんだよ。
僕、日本テレビで従来型のマネジメントに順応しようと思ったこともあるんですよ。部長になって、さて部下を査定する段になったら、頭がガンガンして、うわーってなって(笑)。比喩じゃなくて、物理的にガンガンするんです(笑)。で、こりゃ無理だ、と思って、部下を持たないポジションに変えてもらって。
でもね、僕は映画が好きで、しょっちゅう観ますが、どの映画も、監督の頭がおかしかったりする作品が最高にキュートだったりチャーミングだったりするんだよ。人を惹きつける作品って、バカ要素でできていると思うんだよ、ちゃんとした要素じゃなくって。
この5月に元号が変わって、平成という時代を振り返ることが多かったけど、僕は、失われた30年間って、日本の会社がバカ要素を失った結果なんじゃないかと思う。本田宗一郎だって、松下幸之助だって、バカだよね、ある意味。
スティーブ・ジョブスだって、マーク・ザッカーバーグだって、「今どこにもないもの」を根拠なく信じて、ものすごい勢いで他人にボールを投げまくって、走りまくって、走りきったと思うんだよ。そのプロセスは無茶苦茶だったかもしれないけど、走り続けた人間と追いついた人間だけが、新しいものをつくりだすことができた。どこかのゴールにたどり着いたんだと思う。そんなバカが先頭を走っている組織が勝つ一方で、不祥事が起きても責任者の顔さえ見えない組織もある。
最近Netflixをよく観るけど、オリジナルコンテンツの制作予算が年間1兆6千億円ある。しかも視聴者は全世界にいる。だから、もちろん手堅くヒットを狙いにいく作品も多いけど、ものすごいエッジの効いた作品も多いよね。この間観た「幸せな男、ペア」なんか、2時間45分もあったよ。必ずしもマスを狙うんじゃなくて、刺さるところにはとことん刺さるコンテンツがやっぱり生まれている。
「ボヘミアン・ラプソディ」も「カメラを止めるな!」も、低予算で制作して、業界のプロたちに当たると思われていないのに大ヒットした。面白いものって、やっぱりエッジのあるところから生まれる。やっぱり、バカだからこそつくれると思うんです。
「NO BORDER」は7月からスタートしますが、当たるかどうかなんて正直わかりません。というか、僕は「電波少年」の時も、いつも「当ててやろう」って考えていないんです。正確に言えば「当ててやろう」と思って当てたことがない。「これまでどこにもなかったものをつくりたい」と思って、全力で走るだけです。まあ、バカなんでしょうね。
「NO BORDER」開催概要
■日程:2019年7月7日(火)~9月16日(月・祝)
■会場:COOL JAPAN PARK OSAKA SSホール
(〒540-0002 大阪府大阪市中央区大阪城3−番6号)
■料金:大人 ¥3500 小人 ¥2000(未就学児膝上無料)予定
■HP: https://noborder-earth.com