2019.06.04
#クリエイターズインタビュー No.56来場者10万人を突破した前代未聞のエンタメ空間!作り手の情熱がウンと詰まった「うんこミュージアム」の裏側に迫る!
話題沸騰中の「うんこミュージアム」。好きなだけ「うんこ!」と叫べて、踏めて、触ることができる前代未聞の空間は、なんと本日、オープン約2ヶ月半で10万人の来場者を記録。今や日本のみならず海外からも注目を集めています。この「うんこミュージアム」はどうやってできたのか? 企画制作を担当した企画部プロデューサーの香田遼平とクリエイティブディレクターの阿部晶人、テクニカルディレクターの白井章平に、提案からオープンに至るまでの裏話を聞きました。
本日迎えた、10万人突破の瞬間
5秒で通った「うんこミュージアム」の企画
―「うんこミュージアム」って冗談かと思っていたので驚きました。そもそもこの企画はどこから生まれたんですか?
- 香田
- 当初は複合型エンタメビル「アソビル」2階の一区画、約50坪で何かやりませんかというお話でした。アカツキライブエンターテインメント(以下「アカツキ」)さんとの共同企画であることも意識しつつ、スポンサーがつけられる興行的にも話題になりそうな企画案をいくつか出しました。
- 阿部
- 結構真面目な案も出したよね。
- 香田
- そうそう!でもプレゼンではほぼ「うんこミュージアム」の話になりました。カヤックは「うんこ演算」「うんこカレンダー」なども出しているし「UN高」の運営をしているので、2次元やWebでこれだけ子どもが喜んでいるんだから3次元のテーマパークなんて大変なことになりますよと提案したら、アカツキのプロデューサーの小林さんから「ぜひやろう!」と、すぐにまとまりました。でも、僕はカヤック代表のやなさんに、小林さんはアカツキライブエンターテイメント代表の香田さんに話を通さないといけない。すごく不安だったので、資料をしっかり準備して、プレゼンは時間をかけてちゃんと聞いてもらえそうなタイミングを狙って切り出したんです。が、やなさんからは5秒でOKが出た上に「中学生になると急にうんこから離れるから気をつけて」と助言までもらって。
―さすが、うんこネタのリーディングカンパニー。
- 阿部
- 小林さんもそんな感じだったらしいよね。すごくやりたい、でも通すために何か考えなければと企画書をデスクに置いていたら、それを偶然見た代表の香田さんが大乗り気になってトントン拍子に決まったとか。
- 香田
- どちらの会社もですが、普通はこんなに簡単にうんこネタは通らないですよ。アカツキさんとカヤックは社風が似ているんでしょうね。
ひたすらうんこについて考え、学んだ「うんこ合宿」
―企画を形にするまでどれくらいかかりました?
- 香田
- 半年ぐらいです。50坪だった話が打ち合わせのたびに50坪ずつ増えて、最終的に180坪になって(笑)。その制作過程において重要だったことの一つが「うんこ合宿」です。企画が通ったあと、準備を始めて三カ月くらい経った頃、全員の共通認識がずれてきている気がしたので、アカツキさんとカヤックのメンバー10人ほどで集まってうんこについて話し合ったんです。「うんこの巻きは2段か3段か」「どんなうんこなら受け入れられるか」といったうんこの定義から、「ミュージアムで何を持ち帰ってもらうか」といった企画のコンセプトや狙いまで、ひたすら熱く語りましたよ。
- 阿部
- 確かに、あれほどうんこについて真面目に話した時はなかったかもね。 KJ法みたいに付箋をひたすら貼って考えたし。
- 香田
- そのお陰でコンセプトの「うんこの解放」を全員が共通の言葉で語れるようになったし、茶色くて汚いうんこのイメージや既成概念を覆したいとの思いが強まりました。「タブーを思う存分体験できるうんこミュージアムを通して、うんこを解放しよう!」と誓い合ったんです。
―合宿中に取り上げたテーマで印象深かったものはありますか。
- 阿部
- 歴史ですね。ベルサイユ宮殿にはトイレがなかったことは有名ですが、公衆衛生の文化ができるまでうんこは身近な存在だったことなどの歴史的背景を皆で学びながら、うんこを忌み嫌われるものではなく、もう一度身近でオープンな存在にすることはできないかと本気で考えたんです。
- 香田
- だからこそ「うんこの解放」を提唱する「うんこミュージアム」の便器には、仕切りがないわけです。
―急にアカデミックですね。あの空間には歴史的にも裏付けがあるという。
- 白井
- コンセプトをブレさせないためにも、見せ方にはかなり拘りました。相当数のアイデアを出しましたが、「既成のうんこ感に囚われている」と厳しいFBが何度もありましたし、ポップにまとめるのが大変でした。この妥協のないやりとりから「3段+頭のうんこの黄金比率」も採用されたんだよね。
- 阿部
- あれこそ人類の発明ですよね。あのシェイプだからこそいろいろと活用できる。昔のSFに出てくる宇宙を表すSEに近いというか、宇宙で本当にあの音がするわけじゃないのに宇宙を想像させる。その関係性がほぼ同じだなと。
最新のエンタメを学んだロサンゼルス視察
―しかも、ロサンゼルスへ海外視察にも行かれたとか。
- 阿部
- はい。体験の面白さを追求するため、僕ら3人と小林さんで最新のエンタメを視察しにロサンゼルスに行きました。インスタジェニックな「Cheat Day Land(チートデイ・ランド)」やテーマごとに29の部屋がある「29Rooms(29ルームズ)」など、流行中のポップアップイベントには全部行ったよね。
- 香田
- 本当に行ってよかったと思います。ポジティブとネガティブ、両側面での学びがありました。この時の知見で「うんこミュージアム」が完成したと言っても過言ではないくらいの重要な視察でした。 実際、「29Rooms」では音楽やフォトスペースの大事さを実感しましたしね。BGMがクラブミュージックだと気分が上がるし、盛り上がりが生まれるから音楽は大事にしようとか。その結果、「水曜日のカンパネラ」のケンモチヒデフミさんにご協力いただくことになりました。
U.N.K.O.:ケンモチヒデフミ(水曜日のカンパネラ)がトラック制作、タカノシンヤ(Frasco)が作詞作曲、峰らる(Frasco)がVoを務めた「うんこミュージアム YOKOHAMA」のテーマソング「U.N.K.O.」。Spotifyの国内ランキングにランクイン後、国内外に人気の楽曲として紹介された。
- 白井
- 入口の没入感もね。入口と「MY UNKO MAKER」付近は盛り上げつつも暗く、フロアに出るとバーンと「うんこボルケーノ」が現れる空間づくりは「29Rooms」を参考にしました。入口が狭く、暗くて細い通路を進むと急に視界が開けて広いフロアに音楽が鳴り響くつくり方には本当に感心させられたんです。
―入口で「うんこー!」と言わされる演出もそうですか?
- 阿部
- あれはLAで体験した「Fa La Land」が参考です。そのイベントでは入口でスタッフが声をかけて盛り上げるんですが、やり取りするうちに気分が高まってきたのでこの方式はいいぞと。
- 白井
- 「MY UNKO MAKER」でうんこを生み出すまでに、お客さんにどれだけ魔法をかけられるかが勝負なんです。現時点では強めの魔法をかけ過ぎている感もありますが……うんこの固定観念を解放させると他の欲望まで解放されるんですかね(笑)。
- 阿部
- イベント丸ごとの企画制作は初めてで不安でしたから、視察に行けて本当によかったです。自信を持っていい部分、修正が必要な部分の判断がつきましたし、コンテンツのパッケージング方法の正解がそこで見えたんです。180坪のフロアをUNSTAGENIC(ウンスタジェニックエリア)、UNTERACTIVE(ウンタラクティブエリア)、UNTELLIGENCE(ウンテリジェンスエリア)に分けて、コンテンツを当てはめるプロセスが確立できました。
- 白井
- 視察前は導線を決める案もあったんですが、完全になくなりましたもんね。絶対通ってもらいたい場所は入口のみで、その先はもう自由にと。
「ザッツ! ウンターテインメント!」
―実際には、来場見込み10万人の半数を約1ヶ月で達成されましたが、成功を確信されたのはいつ頃ですか?
- 香田
- 10万人というのも実は希望値で、内心は6万人でトントンだと思っていたので、オープン後は大反響だと聞いても全然安心できなかったですね。つい数日前までずっと不安でしたが、ようやく実感がわいてきました。
- 阿部
- 最初は全員ビビってましたね。だってうんこで失敗するとか一番嫌だもん(笑)。
―期待いっぱいで来場されるお客様におすすめのアトラクションは?
- 香田
- 「MY UNKO MAKER」ですかね。うんこを棒に刺して館内を歩き回る仕組みは僕自身発明だと思ってます。
- 白井
- スケッチ4枚目の時点でもううんこが棒に刺さった案を描いてましたね。「うんこを絶対持って帰りたいんだー!」という香田の言葉が反映された結果だよ。
- 阿部
- 「うんこシャウト」です。マイクに向かって「うんこ!」と叫ぶと声量に合わせて大小のうんこが出てくるコンテンツです。頑張ってスカイツリー級のうんこを作ることができた時には特別な爽快感があるんですよ。大人も子供もマイクに向かって必死に絶叫している姿を見て、これはすごいコンテンツを生み出してしまったなと感じています。また、「ザッツ!ウンターテイメント」などのコンセプトコピーや各コンテンツの説明ボードの文章も注目してください。一語一句に至るまで魂込めて書いています。
- 香田
- 「ザッツ! ウンターテインメント!」でエンタメとしての打ち出しができましたね。知識を深める展示ではなく身近で楽しいイベントという立ち位置も明確にできましたから。白井さんはやっぱり「うんこボルケーノ」?
- 白井
- 最初から担当していたからやっぱりね。当初は「巨大うんこからミニうんこを噴火させたい」っていくら説明しても皆わかってくれなくて。メインコンテンツを作ったほうがいいと散々言われた後でサイズ感と体験の雰囲気がわかるイメージ画像を作成してみんなに納得してもらいました。結果的に空間のシンボルになったのでよかったです。
- 香田
- 「うんこ」は、大人になると常識もあり素直に楽しみにくくなる存在ですが、この空間では恥ずかしさや照れを取っ払い、童心に戻ってめいっぱい楽しんでもらえたら嬉しいです。大人向けのオールナイトクラブイベント「うんこボルケーノナイト」などもぼんやり考えています。
「本当に大変でしたが、いいプロジェクトだったと思います」と最後に言葉を継いだ香田さん。日常では陽の目を見ないテーマを真摯な探究によりエンターテインメントへと昇華させた「うんこミュージアム」は、業界に新たな常識をつくり出した存在と言えそうです。
取材・文:木村早苗