2025.03.12
#クリエイターズインタビュー No.88いざ、大阪・関西万博へ! 大阪府八尾市×カヤックの「アイデアを実現させるまちづくり」
2025年4月から10月にかけて開催される大阪・関西万博。基礎自治体として唯一出展するのが大阪府八尾市です。八尾市とカヤックは、コミュニティ通貨「まちのコイン」の導入をきっかけに連携を開始。その後、「企業版ふるさと納税(人材派遣型)」制度(※1)を活用し、カヤックのちいき資本主義事業部ディレクター・中村圭二郎が八尾市職員として勤務。DX推進やシティプロモーションに取り組み、八尾市の発展に貢献するパートナーとして活躍しています。
自治体と民間企業がチームとなって地域活性化に取り組むことで、どのようなまちづくりができるのか?
八尾市とカヤックの担当者に話を聞きました。
※1 企業版ふるさと納税の新たな類型として令和2年10月に開始した取り組み。専門的知識・ノウハウを有する企業の人材の地方公共団体等への派遣を促進することを通じて、地方創生のより一層の充実・強化を図る。
<対談者プロフィール>
後藤 伊久乃 (右)
大阪府八尾市産業政策課 課長
八尾市は、約3,000もの製造業の中小企業が集積しており、日本で有数の「ものづくりのまち」として知られている。
その中小企業を支援するのが産業政策課
中村 圭二郎(左)
面白法人カヤック/ちいき資本主義事業部ディレクター
「まちのコイン」「SMOUT」の導入支援を担当。
2024年7月より、企業版ふるさと納税(人材派遣型)を活用し、八尾市の産業政策課に所属。大阪・関西万博の出展に向けて奔走中
◇きっかけは、まさかの「うんこ」!?
ーまず最初に、八尾市とカヤックとの出会いを教えてください。
後藤
最初にお会いしたのは2019年、「みせるばやお」(※2)の1周年のときですね。そこから、町工場のものづくりの現場を体験できる「FactorISM(ファクトリズム)」というイベントでカヤックさんの「まちのコイン」を実験的に導入して「これは相性良さそうだ」と、行政で取り入れることになりました。
※2「みせるばやお」:八尾市のものづくりを担う中小企業が集まって魅力を発信するプロジェクト
中村
2023年の「FactorISM」を視察した(カヤック代表の)柳澤も「八尾は面白いね」って、夜の打ち上げにも参加しました。そこで中小企業の社長さんたちと盛り上がったのが「うんこ」。八尾市のみなさんはリベラルアーツ的に「うんこ」を捉えていらっしゃって、この手の話がすごく好きなんですよ(笑)。カヤックといえば「まちづくりからうんこまで」。それで一気に距離が縮まって、あのとき「うんこ」の話で意気投合していなかったら「企業版ふるさと納税(人材派遣型)」に僕を推薦してもらっていなかっただろうなと思います。
後藤
あはは。中村さんには「まちのコイン」導入の段階から、八尾市の場合はどういう活用ができるかディスカッションしながら企画から一緒に考えていただいて。お互いにどんどん色々なアイデアを出し合っていけました。ですから、うちの組織にすごくいい影響があるなと感じて、ぜひ中に入ってもらって、良いチームづくりができるのではないかという期待がありました。
中村
カヤックがブレスト文化を大事にしているところを評価してくださったんですよね。八尾のすごいところは柔軟さ。地域のみなさんを巻き込んでブレストをしたり、面白そうなことに全乗っかりしてくださるんです。民間企業と自治体って文化が違うので、自治体とのお仕事だとどうしても、カヤックの提案の尖った部分は削って丸くして…というコミュニケーションになりがちなんですが、八尾の場合は「中村さん、もっと尖った企画はないですか?」みたいなパワフルな推進力があって。そういう感じで一緒に制作させてもらったのが、大阪万博出展の認知拡大に向けたポスターと動画です。
<ポスター>1970年の大阪万博の頃と、2025年の万博参加企業の社員を対比させたデザイン。全14種類ある。
<動画>八尾の町工場の音や河内音頭をシティーポップにMIX。国境や世代を越えて感覚的に届けることを目指した
◇まちづくりのポイントは「みんなを巻き込むこと」
ー大阪・関西万博のPRポスターと動画は、どのように誕生したのでしょうか。
後藤
八尾市は大阪・関西万博で、モノづくりの楽しさや醍醐味を体験できる「大阪ヘルスケアパビリオン」の中の1ゾーンに1週間、出展します。基礎自治体で唯一の出展で万博展示の前例もないですし、本当にゼロからつくっていかないといけない。そこで色々な発想やネットワークを持つカヤックさん、中村さんに「企業版ふるさと納税(人材派遣型)」を通してサポートいただきたいとお願いしました。
中村
最初のオーダーは、八尾市が万博に出展することをどう市内外に伝えるかで、八尾市内に向けてはポスター、海外も含めた市外に向けては動画と2つに分けました。ポスターは、万博に出展する企業のスタッフさんたちの、1970年に行われた大阪万博の頃を彷彿とさせる古い写真を、今の姿と並べています。カヤックが過去に制作した「鎌倉今昔写真」というコンテンツを参考に、職人さんたちの脈々と受け継がれてきたカッコよさを伝えたいという思いで形にしました。
後藤
ポスターのフレーズなども、企業の職人さんたちが面白がって一緒に考えてくれるんですよね。市が勝手にやっているんじゃなくて、企画段階からつくる過程もみなさんを巻き込んでいくことができました。動画も、踊り手がいる、歌い手がいる、その都度いろんな方を巻き込んで、ワクワクしながら、細かいところからみんなでディスカッションして詰めていきましたよね。
中村
企業の社長さんたちは、国内だけじゃなく海外への展開も視野に入れていると聞きました。海外で興味を持ってもらうには、めちゃくちゃ説明するか、感覚的にユニークだと共感してもらうかだと思います。そこで、言葉が分からなくても興味を持てる音楽と映像を融合させると良いんじゃないかと。海外で日本のシティポップが流行っているということで、それをベースに八尾の河内音頭をMIXして、さらに町工場のものづくりの音を乗せて、八尾の街並みや工場の営みの風景を盛り込みました。「あの風景を見に行きたいな」「工場の機械を見に行きたいな」と、万博のあとに八尾まで足を運んでもらえるような動画を目指しました。
後藤
道頓堀の映像から始まるのは、海外から大阪に来たらまず難波の道頓堀だろうという話になって。実は道頓堀をつくったのは、八尾出身の人なんです。そんな繋がりのネタを捻り出して、ふすまの企業さんに「道頓堀にふすまを持って行って開けたいんです!」と提案したら「面白いからいいよ」と面白がって貸してくれた。それでふすまを4枚、道頓堀まで持って行ったんです。
中村
あのふすまはCGじゃなくて、裏側で私を含む4人のおじさんが支えてるんですよ。朝6時に、道ゆく人たちに怪訝な目で見られながら。後藤さんのすごいところは、「道頓堀にふすまが欲しいな〜」ってキュートに言ってるけど、冷静に考えるとジャイアンみたいな依頼ですよ。キュートなジャイアンのようなコミュニケーション(笑)。僕がブレストのつもりで「こんなのどうですか?」って思いつきみたいな提案をすると、後藤さんが「うん、よし、じゃあそれでいこう!ふすまやさんに突撃!」って。こっちの方が「ちょ、ちょちょちょっと待って下さい」ってなるくらいの実行力です。
後藤
私は産業政策課という部署で、中小企業の方々の課題を吸い上げ、サポートするのが仕事なのですが、最近、こちらからお願いに行くことが多くなっています。でも、企業さんにもメリットになることがあるはずと、普段から社長さんたちに大きなお節介をしていて、それでつながりがあって。
中村
それがまた八尾市がアイデアを実現できるポイントですよね。後藤さんは自分の思いだけではなくて、良さそうと思ったら人脈のある社長さんたちにバッと相談してご意向を確認して、それで「あっちに行く」って決められるんです。だから、中小企業の社長さんたちが市の取り組みを後押ししてくれているという。
自治体職員と中小企業の社長さんは、「税金を取る側・取られる側」「行政命令を出す側・出される側」という緊張感のある関係になりがちだと思うんです。でも後藤さんは社長さんたちと信頼関係をつくって「これちょっと困ってるので協力してくれませんか?」と頼める。民間が味方になってくれて物事を進めていけるところが、本当に強いなと思うんです。
後藤
怖いのは、市が何か支援施策をつくっても利用者がいないことです。みんなを巻き込んで支援策をつくることで「自分たちのためのものだ」と思って、みんなが利用する形が築けると思います。最初の段階から色々な人をいかに巻き込んでいくかが、何をするにも重要だと思いますね。「市民とつながりを持つ」という点では、カヤックさんのコミュニティ通貨「まちのコイン」の効果をすごく感じています。
◇「人のつながり」が可視化できた
ー「まちのコイン」はどのように活用されているのでしょう。
後藤
「まちのコイン」は、2021年に「みせるばやお」で実証実験をして、八尾市では2022年から導入しています。デジタル田園都市国家構想のページに「デジタルの力を活用した地方の社会課題解決:魅力的な地域をつくるー地域コミュニティ機能の維持・強化の事例」として動画が掲載されていますので、そちらで八尾の活用ぶりをご覧いただくとわかりやすいです。


中村
「まちのコイン」は地域ごとに「関係人口の創出」「SDGsへの興味関心の拡大」など、注力したい課題に合わせて活用できる特徴があります。八尾はやはり「ものづくり」が中心にあって、ものづくり企業同士のつながりや、「FactorISM」など一般の方のものづくりイベントへの参加を促し、それを可視化して地域活性に繋げることが導入目的でした。
後藤
そうですね。最も効果を感じているのは「まちのコイン」のユーザーさん、スポットさんとコミュニケーションやつながりが持てるようになったことです。これまで色々なイベントをやってきましたが、いつも誰に届いているのかわからない中で、一方的な情報発信の広報宣伝をやり続けるしかなかったんです。でも「まちのコイン」の活用によって、イベントの後もずっと関係を維持できるようになりました。これはとても魅力的です。スポットになる企業やお店の「次はどういうことをしたらいいか」というマーケティングの勉強にもつながっています。中小企業支援として重要なところですし、集客面と、何かやろうとするトライの両側面ですごくいいなと。
中村
「FactorISM」に参加していたのが協力的な製造業の方ばかりで、どんどんスポットになっていただいた。自社で使わなくなったものや、試作品で用意してるもの、廃材などを提供してくれるんです。「まちのコイン」を集めると、それらと交換ができる。
後藤
「スクールゾーン」みたいな、道路に貼るテープを作っている企業があるんですが、その企業さんにお願いして地面に貼れるQRコードを作ってもらって、公園など市の公的機関の地面に貼って、お散歩コースみたいなものを作ったんです。「桜のキレイなところ、どこを知っていますか?」と呼びかけたりして。その呼びかけで教えてもらった場所をつなぐコースをまわると、歩いた消費カロリーに合わせた「まちのコイン」がもらえるんですね。それで、企業さんからもらった廃材やエコバック、寄付いただいたものなどを交換できる仕組みをつくったら、たくさんのユーザーの方が気に入ってくださって、活用してもらえました。

後藤
コロナ禍では、商店街を含めDXを進めていく流れがありましたが、当初は、何物かわからない「まちのコイン」を導入してもらうのはすごく難しかったです。ところが「まちのコイン」を使ったユーザーの方が自発的に商店街のお店に働きかけてくれるんですよ、「まちのコインを使った方がいいんじゃないか」って。それから商店街の中で爆発的に「まちのコイン」のスポットが広がった。消費者、お客様に言われるとスポットになるお店側も「1回取り入れようか」ってなるんですね。そこから、商店街に徐々に人が訪れるようになって活気が戻ってきました。
中村
商店街の人通りの変化は目に見えて分かりましたし、データとしても証明できたのが嬉しかったです。「まちのコイン」には、スポットにあるQRコードを読み込むだけでコインが貯まる「チェックイン」という機能がありますが、ある喫茶店では2年弱の間に59,000回のチェックインがありました。チェックインは1日1回しかできないため、単純計算すると毎日70〜80人が訪れたことになります。この実績を共有すると、さらに多くのお店の方が「自分の店でも試してみよう」と興味を持ってくれるようになりました。
「まちのコイン」はお金にはならないため、商売をしている方には最初はその魅力が伝わりづらい部分もあります。しかし、八尾では最初にスポットになってくださったのが製造業などの2次産業の方々で、そこから小売業・飲食店といった3次産業へと広がっていきました。特に職人精神の強い2次産業の方々とは、相性が良いのかもしれません。

◇共通点は「面白いことに貪欲」
ー八尾市とカヤックで、今後取り組みたいことは?
後藤
いまは「八尾のものづくりをレガシーとして後世に残したい」という思いで13社の企業が集まり、万博でどういうところをアピールしたら良いかを議論しています。例えば「ガラスのような透明度のゴムで作られたグラス」や「折り紙のような使い方ができる超繊細な金網製品」など意外性のあるものを展示をして、「これってこんなものでできてるの?」という驚きや発見をしてもらったり、ものづくりの体験を通して「自分はこういうことが好きだったんだ」と心が動いたり、身の回りのものを違う角度で感じられたり。何かをつくりたくなる機会を提供したいと考えています。
中村
僕は後藤さんが万博後に燃え尽き症候群にならないか心配なんです(笑)。だから「万博の後に八尾がどうなっているべきか」という方向性を一緒に考えさせてもらって逆算すれば、万博中の取り組みやPR施策もさらに明確にできると思っています。後藤さんを燃え尽きさせないように。
後藤
万博で八尾市に興味を持ってもらった後に、どう生かしていくか。そこからが本領発揮ですよね。八尾市へ引っ張ってこれたら、それをどうキャッチしていくかを考えていかないといけない。企業さんが新しいビジネスチャンスを掴めるような、そんなゴールに向かっていけるステージにしたい。そのためには、まだまだ詰めないといけないところがいっぱいあります。詰めていく段階で「どうしよう…」って思うことがたくさんありますが、中村さんとの打ち合わせは、それが楽しい。色々なアイデアが出て「実験していこう」と同じ気持ちで動いてくれるので創造性が高い感じしかないですね。
中村
八尾の中小企業の社長さんも後藤さんも「最後は自分が責任を取るから」と、部下を突き進ませてくれるリーダーが多い気がします。信頼もあると思いますが、それ以上に新しいことや面白いことに貪欲な人が多い印象ですね。そこがカヤックとの共通点かな。カヤックのちいき資本主義事業部のディレクターであり、「企業版ふるさと納税(人材派遣型)」で八尾市の職員でもあるユニークな立場を活かして、これからもカヤックと八尾ならではの面白いまちづくりに挑戦していきたいです。
(取材・文 小林そら)
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