2021.04.27
#クリエイターズインタビュー No.64『スーパー野田ゲーPARTY』 大きなこと言ってみたらNintendo Switchのゲームが作れた という嘘みたいな話
2021年4月29日発売予定のNintendo Switchダウンロード専用ソフト、『スーパー野田ゲーPARTY』。マヂカルラブリー・野田クリスタルさんとカヤックがタッグを組んだゲーム開発は、何気ないLINEから始まったという。クラウドファンディングで1357万円の開発資金を達成し、約2000人もの出資者を集めた異例の注目ぶり、さらには野田さんのM-1グランプリ優勝と、話題に事欠かない制作の日々を振り返る。
■ダメもとのクラウドファンディングで、339%の達成率
ーー本プロジェクトは吉本さんからの依頼ではなく、カヤック側からお声かけしたのだとか。
香田
「コロナ禍でも世の中を明るくできたら」と、 後藤さんと企画を考えていた際に、ちょうど野田クリスタルさんの『R-1ぐらんぷり2020』優勝の記事を拝見したんです。自らプログラミングしたゲームをリアルプレイする実況ネタがすごく斬新で。以前ご一緒したことがある吉本興業の高山さんに連絡してみました。
高山
僕から野田さんに「【ことばのパズル もじぴったん】を作ったゲームクリエイターさんが、何か一緒に面白いことしたいそうですよ、興味あります?」ってLINEして。
香田
今ふりかえっても、具体的なことは何も決まっていない、相当ざっくりした提案だったんですけど......。
野田
俺もざっくり「やりましょう」と、笑。
ーー協業のきっかけだけでなく、制作過程も独特ですよね。開発資金はクラウドファンディングで調達し、そのリターンで素材を集める『共創型』ゲーム。スタート時に予算も企画もほぼ未定なのは、かなり冒険だったのでは?
野田
逆に、ハードルが異常に低かったですよ。目標金額の400万円だって集まらないかもしれないと予想していたので。Nintendo Switchでゲームを出したいですっていう「記念受験」というか、形として残ればいいな、と思っていました。
最初は、マヂカルラブリーが好きな人や、一部のユーザーだけが気に入って投資してくれるかも、と考えていたんです。クラウドファンディングがスタートしてびっくりしました。ゲームに携わってみたいとか、自分で何かを作ってみたい人が、こんなにもたくさんいるんだって。
ーー制作スタート時からこの一年で、心境の変化などありましたか。
野田
最初の心境の変化は、クラウドファンディングが1300万円を超えて集まった時。何か大きなこと、とんでもないことが始まるのかな、という期待でソワソワしましたね。その後『M-1グランプリ』で優勝して、これどうなっちゃうんだろう、という気持ちは今も続いています。
だって去年、一昨年のプロジェクトだったら、こうなっていないですもんね。すごいタイミング、よくここまで噛み合ってくれたなって。
立石
クラウドファンディングが始まって三日目くらいで目標の400万円を達成し、そこから勢いが衰えずに伸びていって......。
広告がメインのアートディレクターだからゲーム作りの知見はあまりないのですが、これは本当に発売できるんじゃないか、ってテンションが上がりました。土日稼働してもいいからガンガンやりたいな、と気持ちが昂ったのを覚えています。
野田
土日......。確かに、通常業務もあって『野田ゲー』もやってもらって。カヤックさん、どうやりくりしてるんだろうなって思ってましたよ。聞かなかったけど、笑。
高山
最初は何か一個でも面白いことができたらいいな、くらいの気持ちから始まったんですよね。やっていく内にどんどんあれもやりたい、これもやりたい、と僕の中でも広がっていって。今はダメもとでも世界進出を狙いたいとか、嘘でもアメリカでも買えますって言いたい、笑。
野田
嘘みたいなことやっていくスタイルなんだろうな。
香田
まず言ってみる、と。
野田
うんうん、大きなことを言ってみる。それが全ての始まり。
■素材ありきで生まれた、新感覚のゲーム
ーー『スーパー野田ゲーPARTY』は現在16タイトルですが、ラインアップはどのように決まったのですか。
後藤
かなりの案を出して、さらにブレストもしましたね。資金が確定した辺りで、トータル10回以上話し合い、合宿もしたんです。
野田
ゲームを選ぶ時は、まずジャンルが被らないように決めていきました。制作チームみんながゲーム好きで、前提としてゲームあるある話から始まって。ゲーム好き談義から派生した「裏設定」が全部のゲームにあります。
例えば、「格闘ゲームって後ろにいる観客も大変な感じしない? 観客になって、頑張って応援した方が勝ちやすいゲームとかどうだろう」と、背景自体にも一つのストーリーがあるという設定から作ったのが【~GALS FIGHTER~ 応援】です。自分たちも作っていて、えらい盛り上がりました。
ーー新作タイトルには100以上ものネタだしをしたのだとか。
立石
タイトル名が駄洒落だけってオチのもありましたね。名前だけ案出しして、面白そうなものを掘り下げていきました。【みんモル(みんなのモルック)】は直前まで残ってましたよね。
野田
【みんモル】は、惜しくも最後の最後でボツになりましたね。モルックの最新ゲームとして出してもいいかなって思っていたけれど、このゲーム一個作るのにどんだけカロリーかかるんだよって。むしろ、【みんモル】単体で『野田ゲー』を作ってもいいかも。
高山
【おたけ さいこっちょーゲーム】だけは、誰も作りたいって言ってないのに最後まで残っている。いろんな隙間を縫って、笑。
後藤
あと僕は【ローション三国志】とか、何でもかんでもローションくっつけたら面白くなるかなと思っていた時期がありました。結局一個も採用されなかったけど。
野田
あのローションすべりネタは、【つり革】に入り込んでません? 後藤さんの最後の抵抗、笑。
ーー最後に急遽追加されたのが、この【つり革】ですよね。
後藤
M-1優勝を見て感動して、その勢いで翌日には仕様書を作ってました。スケジュール的にも、ねじ込むにはギリギリのタイミングだったので、大急ぎで作りましたね。
野田
『スーパー野田ゲーPARTY』をプレイする上で一番最初にやるゲームって何かな、と考えた時、どのタイトルもわりと癖が強い。【つり革】なら、まさにちょうどM-1で優勝したネタなのでキャッチーだし、ルールも簡単だし、勝敗も分かりやすい。一発目に遊んでもらうゲームとしてぴったりだな、と思いました。
ーーゲームを制作していて苦労した部分はありましたか。
野田
山ほどあった気が......。一番大変だったのは、クラウドファンディングのリターンで集まった膨大な素材を使い切ることですね。結果的には資金が集まってよかったんですが、リターン品はもっとよく考えなきゃなー、勢いで決めちゃったから。
後藤
企画が固まっていない段階で素材を集めたのも、画期的というか無茶でしたね。ぶっちゃけ、ゲームもリターンの素材に寄せてますからね。
【将棋Ⅱ】では、登場する駒のデザインに200点以上ものイラストを採用しました。駒の動き方はそれぞれの絵柄にちなんでいて、絵柄から予想しやすいものもあれば、あえて裏切っているものもあったり。どんな動きをするかは、やってのお楽しみですね。
野田
【将棋Ⅱ】なら、藤井聡太さんにも勝てるかもしれない、笑。
野田
あと、ペットの登場枠が50くらい集まっていて、そんな大量の動物が出るゲームも、まあそうは無い.......。考えに考えて【新・干支レース】が生まれました。
立石
効果音の素材を活用しようと【音声衰弱】を作りましたよね。こういうのってゲームとして新しいし、面白いものができた。「素材ありき」でゲームを作るのって、なかなかよかったと思うんです。
ーー「みんなで作る」というコンセプト通り、制作チームだけじゃなく、出資者も含めて作りあげたんですね。
後藤
関わってくれた人が大勢すぎて、エンドロールがめっちゃ長いんです。10分くらいあります。
野田
「エンドロールが異常に長い」ってボケだったのに、実際に見たら思わず感動しちゃいました。
高山
他にも苦労と言えば、かなり予算が厳しくて。例えば、リターン品ではむはむ(野田さんのペット)の生写真のプレゼントがあったんです。人手がなくて、僕がデータもらって小学生とかに混じって現像して、100点くらい封入して、住所書いて郵送......って全部自分でやりました。
野田
お金は厳しかった。リターン品でゲームを作る権利がすでに7枠もあって、既存の『野田ゲー』を入れたら、新作が作れないかも、と焦りました。
結果的には、新作も含めて約16タイトルもできた。なぜうまくいったのかもよく分かっていないんですけど、これはカヤックさん側の力技ですね。
香田
クラファンしたけど、見積もれてなかったんですよね、笑。
後藤
作ったことがあるようなゲームだったら予算も見当がつくんですが、今回は全く初めてのことばかりで。
野田
でも、こういう経験値を積むのもすごく楽しかったなあ。
■『野田ゲー』という世界観へのこだわり
ーー制作の過程で『野田ゲー』ならでは、と感じたことはありましたか。
後藤
今回、ゲームを作っていく中でプログラマーさんなどから「本当にこのままでいいんですか」ってしょっちゅう聞かれました。それぐらい、ゲームの作りかた、考えかた、ルールの常識を覆すような初めての体験が多かったですね。
僕、今後もいろいろゲームを作り続けていきますけど、また『野田ゲー』的な作りかたをしちゃうんだろうなと思います。
野田
イップスじゃないですか、もう分からなくなっちゃてる、笑。
香田
何かしら、後藤さんに染みついちゃってるんですね。立石さんも、デザインでブレちゃうって言ってましたよね。
立石
最初はすごく悩みました。『野田ゲー』のデザインとは何だろうってつきつめて、野田さん自身が使っている技術で展開してみよう、と。
普段僕はフォトショップでデザインするんですけど、部分的にWindowsのpaintでドットが粗い状態で描きおこして、それをフォトショップに入れてみました。フォトショップも、境界が滑らかになる設定とか全部OFFにして、『野田ゲー』仕様にしてました。
ーー野田さんのテイストを守ることが一つのポイントだったんですね。
立石
並行して、他のプロジェクトで小綺麗なウェブサイトのデザインを作っていたのですが、思考のベクトルを切り替えてデザインしていくのが大変でしたね。野田さんのYouTubeも擦り切れるほど見ました。
野田
カヤックさんは俺のゲームの作りかたに合わせてくれたんです。
俺のゲームは、そもそもツッコんだり、実況するていで作っちゃうからな。今回はこれだけの人数に関わってもらっているので、ちゃんと遊べるゲームになるように一生懸命練りましたね。
後藤
20年以上ゲームを作ってきましたが、その中で、ユーザーに夢中になって遊んでもらえたという嬉しさは何度も経験しました。でも、自分が作ったゲームを見せて、笑ってもらえたのは初めて。新鮮な嬉しさでした。
野田
【つり革】でも感じたんですけど、カヤックさんはお笑い芸人じゃないのに、ゲームのテンポ感が「お笑い」してるなーって。
俺のゲームの作りかたは、ネタから引っ張られているものが多い。【ブロックくずして】のデッカちゃんのテンポとか、【もも鉄(太ももが鉄のように硬い男てつじ)】のゲームオーバーのタイミングとか、ゲームってオチが多いというか笑いをとれるポイントが多いんです。そういった感覚が伝わっていたのがすごかった。
ーーその他にも、印象に残った出来事があれば教えてください。
後藤
こちらで行き詰まった時、野田さんに相談するとすぐ一発で面白いアイデアを出してくれるんですよね。その瞬発力を見て、やっぱり芸人さんはすごいな、と思いました。
あと、アドリブ力もすごい。エンドロールにおまけ要素があって野田さんの一人語りが入るんですけど、あれ、アドリブでしたよね。
野田
いやいや、アドリブにもなってない、言葉を発しているだけですけどね。他に何かやりたいことがありますか、と聞かれたので、じゃあ気が済むまで喋りますって。
後藤
中身は伏せますけど、チームはスタジオ外で大爆笑で聞いてました。
立石
あと、野田さんの驚きの即決力。今回、既存のゲームの【もも鉄】に、オリジナルモードとは別に出資者が主人公になる新モードを追加して、パワーアップさせたんです。その際、主人公の設定を説明する長いプロローグを用意したのですが、野田さんの提案で「知らん人のプロローグは知らん」と、説明無しでいきなりゲームが始まることに。
野田
もう、知らん人モードということで。出資者の皆さんに登場してもらっているので、実際、知らん人ばっかりのゲームですから、笑。
ーー吉本興業さんからは、カヤックに対して何か感じたものはありますか。
高山
こういった独特のテイストをめちゃくちゃ尊重してくださったし、発注していない部分でのケアもすごかった。さっきのプロローグのアイデアもそうなんですけど、カットになった部分も含めていろいろ提案してくれましたよね。
あと、素材の音楽とかイラストとか権利に関わる部分などは手探りでやっていたので、相当助けていただいたと思います。
野田
いや、本当にプロだなーって。一人のこうしたいああしたい、ってアイデアを全部受け入れてもらって。実際に「うん、これでいい」と思えるほど『野田ゲー』だったし。きっとカヤックさんは『野田ゲー』に限らず、注文を受けたものに対して何でも作れるんだろうな、と思いました。しかも早い。俺が一ヶ月かかるゲームを三日で作れるし、すぐに動いてくれるし。
こんな訳分からん企画にすごく前向きなのは、やっぱり「どうかしてる会社」だと思いましたけど、笑。
■『スーパー野田ゲーPARTY』は、ゼロから面白さをカタチにした大きな試み
ーープロジェクトの今後について教えてください。
後藤
発売したらぜひ色々な人に楽しんでもらって、もっと『野田ゲー』の世界を広げていきたい。次のステップへの第一歩というところ。
野田
何もかもゼロの状態から、クラウドファンディングで資金と素材を集めて、Nintendo Switchからゲームを出す。これは単なるゲーム作りプロジェクトではなくて、もう「試み」だと言える。「試み」の先にゲームがあっただけで、大きなことを言って実行したこと自体に意義を感じます。
次に『野田ゲー』で何ができるか分からないけれど、また大きなことにチャレンジしていきたい、ステップアップしていきたい。本当に世界進出とか。どうします、今後まだガンガンやっていきます?
後藤
僕はライフワーク的に、このまま『野田ゲー』を一生作り続けてもいいなと思ってますよ。大変なんですけど、楽しい。
香田
もう『野田ゲー』しか作れない体に......!?
立石
僕も野田さんのデザインのテイストとか、ある程度インプットされちゃっている。次やったらさらに効率が上がると思いますね。
野田
俺が何も言わなくても勝手に『野田ゲー』が作れちゃう可能性ありますね。経験値、積みすぎて。
高山
しかし「大のおとなが集まって、本気で悪ふざけした」みたいな感じでしたね。あと、おそらくクラウドファンディングで素材を集めてゲームを作ったのって世界初なんじゃないかな。
野田
やったことないことをやった、という楽しさがある。仕事っぽくなってたら、ゲンナリしてた。成功させるつもりでやるんですけど、最悪うまくいかなくても、前のめりの失敗しようって。
高山
それって、クラウドファンディングのおかげかもしれない。普通のプロジェクトだったら、社内決済を通して、予算を取らなきゃいけない、ペイしなきゃいけない。その前提を全くやらずに進めてきた。お金の都合やしがらみ、それをほぼ取っ払って、法的に問題ないかの手続きだけしてね。だから、「面白いことをしようという純度」がめちゃくちゃ高いんです。なかなか無いプロジェクトだったと思います。
野田
今回は、本当に行き当たりばったりだった。でも行き当たりばったりこそが良かった、と考えると、次もまたそんな「甘えない、安定させない」条件でやるかもしれませんね、笑。
「コロナ禍でも、世の中を明るくすることができないか」と集まった小さな輪が、大きな試みとして成就した『スーパー野田ゲーPARTY』。資金ゼロ、素材ゼロのスタートからクラウドファンディングで予想を超える支持を集め、ついにNintendo Switchでのゲーム発売が決定しました。野田クリスタルさんのキャラクターや世界観をつきつめ、未だかつてないタイトルが続々と完成。面白さを追求し、カタチにする共創力を余すところなく発揮したプロジェクトとなりました。
取材・文 二木薫
撮影 片山直也
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