なぜ僕は地域通貨が盛り上がると確信しているのか。お金の歴史から解説してみます。 | 面白法人カヤック

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2021.08.05

#面白法人カヤック社長日記 No.90
なぜ僕は地域通貨が盛り上がると確信しているのか。お金の歴史から解説してみます。

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2019年にコミュニティ通貨(地域通貨)サービス「まちのコイン」を立ち上げました。鎌倉市での実証実験を革切りに、全国12箇所で展開しています(2021年7月31日現在・終了地域含む)。

僕はこれまで、みんながやりたいことを実現する面白法人という組織をつくることに注力してきましたが、正直にいうと、ひとつひとつの事業にそこまで強い思い入れがあったわけではありません。

ところが、先日、カヤックの株主総会で気づいたら「まちのコイン」について延々とお話してしまい、その後、社外取締役含めた経営陣から「そこまでの思いがあるなら自分でしっかりとコミットすべし」と言われて自覚しました。

僕は、この事業には、なみなみならぬ思い入れがあるんだなと。

そこで今回の社長日記では、なぜ僕が思い入れがあるのかを解説する意味で、お金、そして地域通貨というものの歴史を振り返りながら、考察してみたいと思います。

最後まで読んでいただいて(長文ですが)、もし少しでも「面白そうだな」と思っていただけたら、どうぞ、一報ください。そして、「まちのコイン」を一緒につくる仲間として冒険に参加してください。お待ちしています。

お金(法定通貨)の歴史

世界最古の鋳造貨幣は、紀元前670年に小アジア西岸でつくられたエレクトラム硬貨だそうです。ですが、それ以前にも、たとえば貝や毛皮がお金の代わりに使われていました。

交易の歴史を遡れば、大昔はお金を使わず、直接に物々交換をしていたと言われます。でも肉と魚を物々交換したくても「いや、俺は魚じゃなくて野菜が食べたいんだ」と言われてしまったら、交換が成立しません。汎用的な交換手段として、持ち運びしやすく長期間保存できる貝などが使われるようになりました。「財」「貯」「貨」などの漢字に貝の字が使われているのは、その名残りです。

つまり、もともとお金というものは交換のための手段に過ぎなかったというわけです。

日本最古の貨幣は天智天皇時代に使われた無文銭だそうですが、その後も、中国大陸から輸入した明銭や宋銭などさまざまな通貨が流通していました。いま使われている日本円が誕生したのは1871年のことです。

ちなみに世界で最初の法定通貨ができたのは1844年。英国でイングランド銀行が国営化され、中央銀行として発行する銀行券が法定通貨と定められたのです。

つまり、僕たちがいわゆるお金といって思い浮かべるものは、誕生して200年も経っていないということです。

さらに第二次世界大戦後、しばらくの間、1ドル=360円に固定されていましたが、1973年には変動相場制に移行して、為替レートが刻々と変動するようになります。

これによって、各国の通貨が別の国でも使えるようになり、グローバル化が加速しました。いま僕たちが思い浮かべるお金のかたちが出来上がったのです。

法定通貨の課題

そのような進化を経て、お金はいっそう便利なものとなり、非常に強い力を持つようになります。

わかりやすい事例をひとつ紹介します。

僕の手元に1000円分のお肉と1000円札があったとします。現時点では、どちらも1000円の価値という意味で等価です。ところが1年後にはどうなるでしょうか。お肉は腐ってしまえば1000円の価値はなくなります。ところが1000円札は、1000円の価値のままです。

であれば、1000円札を持っていた方が得だということになる。そこで、お金を使わず貯める人が出てくるようになります。

本来は物々交換のためにつくられたお金を運用する上で、重要なのは市場にあるお金の量を適正な量にコントロールすることです。大量に流通し過ぎると、お金余り、いわゆるインフレになって物価が騰がってしまいますし、少なすぎると今度はデフレになってしまう。だからこそ、そのコントロールが重要なわけです。

限られたお金を貯め込む人が出てくると、市場にお金が足りなくなります。そして貯め込んだ人が足りなくて困っている人にお金を貸して利子をとるようになりました。

もともとは交換手段に過ぎなかったものが、お金がお金を生むようになると、手段が目的化していく。たくさんの金融商品が生まれます。お金持ちはさらにお金持ちになっていく。そんな仕組みができるようになったのです。

実業家で経済学の名著を持つシルビオ・ゲゼルという人は、利子の発生こそが格差を拡大する根源であり、使わずに貯め込む方が儲かる構造がさまざまな問題を生み出していると指摘しています。だから減価するお金、つまり時間が経つにつれ価値が減ってしまうお金の必要性を提唱しています。同じ考え方は『モモ』『はてしない物語』などで知られる作家ミヒャエル・エンデの足跡を追った『エンデの遺言』でも紹介されていましたから、ご覧になった方もいらっしゃるかもしれません。

資本主義は経済的な豊かさや技術革新をもたらしましたが、同時に労働者からの搾取や経済格差をもたらしました。カール・マルクスが『資本論』で指摘している通りです。

さて、資本主義という言葉が出てきました。行き過ぎた資本主義をアップデートしたい、そのために鎌倉資本主義(地域資本主義)に取り組みたいというのが僕の考えですが、そもそも行き過ぎた資本主義というのは、お金がお金を生むこのサイクルの暴走とも言えるのではないでしょうか。

ここでもう一度、資本主義について簡単におさらいしたいのですが、資本主義の起源については、明確には定義されていません。

世界初の株式会社は、1602年に設立されたオランダ東インド会社と言われています。大航海時代、探検家は資本家から資金を集めて船を調達し、冒険に出ていました。航海に出たいと思って自分一人でコツコツ貯金しても一生かかっても間に合いませんし、船が遭難してしまうことだってある。複数の人が出資することで、リスクを分散して、船が戻ってきたら巨大な利益を分配する。さらに、事業の永続を目的として、出資した持ち分、つまり株式を市場で自由に売買できるようになったのが東インド会社です。船が沈んでしまったり、事業がなくなってしまっては元手がパーになりますから、その分、大きな見返りを求めるわけです。

株主になる、つまり株式を持つことは、リスクも大きい代わりにリターンも大きい。お金を借りたら返さなければなりませんが、株式はそうではありません。紙屑になるリスクを伴う分、利子の何倍もリターンがなければ見合いません。

投資家はリスクをとって投資し、数倍、数十倍の利益を手にする。経営者は、自分の描いた成長戦略を実現できるように事業を成長させる。この反復運動が資本主義のメカニズムの根幹にあります。

ただよくよく考えると、資本をお金という形で提供するのであれば、これもある種の金融商品という見方もできる。お金がお金を産む、つまり手段の目的化であり、その構造の高速化が資本主義を暴走させているのではないでしょうか。

さらに、それを加速させたのがGDPです。GDPは1940年、サイモン・クズネッツという人が発明した指標です。もともとは戦費調達のための手段でしたが、その後、各国が豊かさの指標としてGDPを追い求めるようになりました。本来あくまで経済的な指標に過ぎませんが、まるで幸せの指標のようになってしまったため、これでお金というものがさらに力を持つことになりました。

ここまでの話をまとめると、法定通貨が誕生し、本来は物々交換の手段に過ぎなかったお金が、手段と目的が置き換わるような使われ方をするようになり、GDPの普及、変動相場制移行によるグローバル化によって加速し、その結果、富の格差や気候変動といった問題が拡大しているということなのだろうと思います。

お金が力を持ち過ぎたことによって、お金を稼いでいない人は、まるで社会に貢献してないという気持ちになってしまう。お金で測れないものは価値がないかのように切り捨てられるようになりました。

実はこういった状況に対して、なんとかそれを変えたいという思いで、地域通貨を立ち上げた人々がたくさんいたのです。ということで、続いて地域通貨の歴史を振り返ってみたいと思います。

地域通貨の可能性

地域通貨というと「またか」と感じる人もおられるかもしれません。実はこれまでも何度か地域通貨はブームを迎えました。たとえば1929年の大恐慌後です。小さな町がデフレへの自衛手段として取り入れたケースがあったりします。日本では、1999年に『エンデの遺言』がテレビ放映された際にも話題になり、さまざまな地域通貨が誕生しました。最盛期には国内で600近くあったそうです。ただ、その多くの地域通貨が生まれては消えていきました。

では、地域通貨にはどういった種類のものがあるのでしょうか。

ひとつ目は、地域振興券のようなものです。本当に地元でしか使えない通貨。たとえば、10000円分の通貨を買うと、11000円分の価値、すなわち1000円お得になる。その代わり地元のお店でしか使えないというものです。

これはなぜ生まれたのでしょうか。行き過ぎた資本主義によって「富の格差」が生まれたと書きましたが、それは何も個人間の話だけではありません。町や都市という単位で見たときに、それぞれの町の格差をも加速度的に生み出しました。日本で言えば、人もお金もどんどん東京などの大都市に流れていくという構造です。それを食い止めるために地域振興券のような仕組みが用いられるというわけです。

ですが、ではこの差額の1000円はどこが原資を負担しているのか? これは大体が行政で、結局は皆さんの税金でまかなわれています。富の再配分を通じて格差を解消するという意味では良いのかもしれませんが、どうにも釈然としない仕組みです。最初から格差がないようにもっとうまく設計できないものかと思ってしまう。

そもそも日本円と同等の価値のあるものであれば、日本円で十分なので、わざわざ違うものを持つからには何かしらのメリットが必要になります。それが1000円分のプレミアムですが、これでは世の中に数多あるポイントとなんら変わりがないのではないかと思います。

もうひとつは、地域住民の相互扶助を目的とした通貨です。いわゆるコミュニティ通貨とも呼ばれます。世界ではこちらの方が主流だといっても良いかもしれません。物々交換を促進したり、共有財をみんなでシェアしたり、困っていることを助け合ったりといった使い方です。

ここでは、従来の経済的価値を伴わないような活動(つまりお金にならなかった行動)に、コインが付与されたりすることもあり、わかりやすい損得の世界に一石を投じるような世界観を持った通貨が多いように思います。

最後のひとつは、価値観通貨と呼ばれる地域通貨です。たとえばゴミの放置で困っている地域があったとしたら、ゴミを拾って持っていくともらえる地域通貨を発行する。つまり地域通貨の運用を通じて、まちの課題を解決するものです。こういうタイプの地域通貨は過去に一定の成果を残してきたようです。

もともとお金というものは無色透明なものですので、新たなお金をつくるのであれば、しっかりと色をつける方がうまくいくということなのかもしれません。

僕の提唱している地域資本主義は、まちごとの地域資本を増やすことで、地域の多様性に繋げたいというものです。地域ごとに経済圏が生まれ、そこで独自の地域通貨があったなら、たとえば海をきれいにすることに振り切ったお金があるかもしれませんし、カヤックは秋葉原にオフィスがありますが、サブカルやオタクを極めるほどもらいやすい地域通貨なんていうのもあり得るかもしれません。つまり、地域ごとのモノサシ(=お金)を持つことで、多元化する価値を測ることができるようになる。

この他にも、人々の時間を交換するような通貨だったり、どんどん減価してしまう通貨だったりと、様々なチャレンジが歴史の中で行われてきました。

こうした地域通貨がうまくいかくなってしまう理由は、いくつかあります。運用コストの高さ、法定通貨と換金できるならば、そちらの方が便利であるなどの理由です。

けれども、テクノロジーの発展によって、新たな局面を迎えています。

たとえば、減価するお金を紙で運用しようとすると大変です。シルビオ・ゲゼルはお金の裏面に定期的にスタンプを推してはどうかと提案していました。考えるだけで膨大な運用の手間がかかります。ですが、いまやスマートフォンの普及が進み、多くの人がモバイル決済のアプリをダウンロードしています。

こうした変化を背景に、行き過ぎた資本主義を改善していくための方法のひとつとして、デジタル時代の地域通貨である「まちのコイン」に僕は大きな可能性を感じています。

「まちのコイン」が目指すチャレンジはこちらです。

  1. 利子というものがなく、使わないと減価していく通貨
  2. 地域固有の価値を定量化・最大化することで、地域間の格差をなくすための通貨
  3. 従来のお金が取りこぼしてきた価値観を大切にし、人の尊厳を尊重する通貨
  4. 人と人が仲良くなっちゃう通貨
  5. 地域特有の課題に皆で一緒に取り組み、自分たちの住むまちを自分たち自身の手で素敵にしていく通貨
  6. その結果、それぞれのまちが個性的になることにつながっていく通貨
  7. これらの取組がビジネスとして持続可能、つまり収益化できる仕組みを持った通貨

そして最終的には、現在の法定通貨が取りこぼしてきた人の幸せを測るための新しい通貨、その通貨を使うことで、GDPに代わる人の幸せを図る指標を、まちごとに個別に見出していく。そんな世界につながっていくといいなと思っています。

どうでしょうか。

ここまでのところを読んで、地域通貨(コミュニティ通貨・価値観通貨)に可能性を感じた方はどのくらいいらっしゃるでしょうか。

資本主義そのものを否定しない。すなわちお金(法定通貨)そのものを否定するのではなく、法定通貨のサブシステムとして地域通貨を導入することで、行き過ぎた資本主義に対してなんらかの価値を投げかけられるのではないでしょうか。

僕たちは多様性=面白さだと考えています。そして、面白く生きる人を増やしたいと考えて、23年前に面白法人カヤックを立ち上げました。「まちのコイン」も、そのための取組です。

まだまだ始めたばかりですから、プロダクトとしては試行錯誤を重ねているところもあります。ですが、地域の多様性を実現したい、資本主義を変えたいという思いに共感してくれて、これまでに12地域が導入してくれています。自治体はもちろん、地域団体や住民のみなさんが参画してくださいました。いっしょに挑戦してくれている方々には感謝しかありません。ぜひ今後も一緒に盛り上げていければと考えています。

導入してくださる自治体・地域団体や企業、そして「まちのコイン」に関わってみたい人を募集しています。

9月3日(金)には「地域通貨サミット」なるイベントを開催します。慶応義塾大学教授の宮田裕章さん(銀髪の先生)らにご登壇いただくほか、東京都国分寺「ぶんじ」、岐阜県高山市・飛騨市・白川村「さるぼぼコイン」、福島県会津若松市「白虎/Byacco (びゃっこ)」など各地の取組をお話します。オンライン・無料ですので、ぜひご参加ください。

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みなさんのご参画をお待ちしています。

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