2022.10.19
#クリエイターズインタビュー No.69『SMOUT』は人生を、地域を、より面白くするための新しい日本地図
カヤックが運営する移住・関係人口のためのマッチングサービス『SMOUT(スマウト)』の「移住における役割」とは何か。その理念はユーザーにどのように受けとめられているのか。3年間で40人近い地域おこし協力隊を採用した豊岡市の沖中さまと、3ヶ月でスピード移住した加藤さまに、『SMOUT』への思いを伺ってみました。
対談者プロフィール
沖中正孝さま(左上)
豊岡市環境経済部 環境経済課 定住促進係長
『SMOUT』移住アワードで常に上位にランクインする、『SMOUT』使いの達人。市民と移住者等が協働した面白いまちづくりを目指す
加藤勇貴さま(右上)
豊岡スマートコミュニティ推進機構/地域課題×DXの協力隊
2022年4月に大阪から豊岡市へ移住した元SE。5人の子どもの父、海の近くに購入した家を自ら改築中
中村圭二郎(左下)
面白法人カヤック/ちいき資本主義事業部プランナー
『SMOUT』と『まちのコイン』の導入支援を担当
地域に興味がある人に届く手応えと成果
ー本日は、豊岡市役所の沖中さん、豊岡市に移住された加藤さん、『SMOUT』運営スタッフの中村との対談を行います。まず最初に、『SMOUT』を使おうと思ったきっかけを教えてください。
沖中
豊岡市が『SMOUT』を使うようになったきっかけは、カヤックの中村さんとの出会いです。2019年に『まちの社員食堂』を視察させてもらった際に、中村さんに応対してもらったんです。
その時、カヤックさんと花巻市さんが以前企画した「二刀流採用」という地域おこし協力隊の採用キャンペーンが面白くて、「豊岡市も何か一緒にやってみたい」といった話をしました。そこで『SMOUT』を勧めてもらったんですよね。
中村
たしか、2019年でしたね。『SMOUT』のリリースが2018年なので、豊岡市さんにはサービス初期から使ってもらっています。
加藤
私は、移住したいと思ってインターネットで情報収集していた時に『SMOUT』を知りました。自治体の他、地域に移住した人ともつながれる機能があるので、情報収集や連絡のツールとして使っていました。
ー『SMOUT』を使ってみた感想はどうでしたか。使ったことで、どのような変化や成果がありましたか。
沖中
豊岡市が『SMOUT』を使い始めてから3年近く経ちますが、本当に色々な人と出会えました。不特定多数に向けてただ情報発信するのではなく、地域に興味がある人にちゃんと届いている実感や、認知度向上の手応えがあるんですよね。「豊岡市が面白いことに取り組んでいるな」と共感してくれた人たちとつながれています。
豊岡市のプロジェクトの半分近くは地域おこし協力隊の募集なのですが、『SMOUT』を通して、40人近くの方を採用できました。これは大きな成果だと言えます。
ーすごい採用数ですね。加藤さんは『SMOUT』を使ってみていかがでしたか。
加藤
気になった自治体だけでなく、その地域で色々なことをしようとしている人・地域コミュニティともつながれることや、自分が全然知らない地域からも声をかけてもらえたことが面白かったです。『SMOUT』を使って、実際に4箇所くらいの地域を見に行きました。
ー移住後の仕事や暮らしはいかがですか。
加藤
2022年4月に大阪から移住し、今は豊岡市の地域おこし協力隊として働いています。以前SEだったキャリアを活かして行政内のDX化に取り組んだり、地域の情報発信を手伝ったりしています。
自宅は、日本の渚百選に選定されている「竹野浜」のすぐ側なんです。自分たちでコツコツとリノベーションしていて、DIY系YouTuberにもなれそうです、笑。リノベーションを見た近所の人から家の修理を頼まれたり、カニや野菜の差し入れをもらったり、楽しく交流しています。家族と過ごす時間が増えたことが本当に嬉しいですね。
新しい価値を一緒につくる、豊岡流『SMOUT』活用法
ー充実した暮らしぶりが伝わってきます。加藤さんと豊岡市は、どのようにつながったのですか。
加藤
『SMOUT』に掲載された豊岡市のプロジェクトに対して、「興味ある」というボタンを押しました。当時の担当者から連絡があって、その3日後ぐらいには現地を訪れていました。
私の場合、『SMOUT』で豊岡市とつながってから移住してくるまで、3ヶ月くらいしかかかっていないんですよ。豊岡市の担当者が紹介してくれた地域の人たちと『SMOUT』内でつながって、一気に情報収集ができたことも大きかったです。
ー3日後に訪問して、3ヶ月で移住!
加藤
早いですよね。そもそも、最初のコミュニケーションが面白かったんです。環境も豊かだし、色々PRがあるのかと思えば、逆に「加藤さんは何に興味があるんですか」とツッコミが来た。これは自分がちゃんと興味を持たなきゃいけないと思って、豊岡市について自分から調べました。
調べてみると、豊岡市は色々な町が合併してできたので、各地域の特色が多様なんです。自分の目で見て確かめたいし、住民にも直に話を聞けるということで早速出かけました。2、3通しかメッセージをしていないのに、もう豊岡市を訪れているという。してやられてますね、笑。
うちは子供が5人いるのですが、公園はそんなに多くないですよ、など少しネガティブなこともきちんと伝えてくれて。最初から、リアルな話を聞ける機会があったのも良かったです。
沖中
チームメンバーには、『SMOUT』上でのやりとりについて、「市職員の立場で豊岡市の看板を背負って対応するより、まずは純粋にひとりの豊岡人としてコミュニケーションした方がいいよ」と伝えています。
中村
そういった裁量が大きいところも、成果につながっているのかもしれませんね。
ー豊岡市は「SMOUT移住アワード」で例年上位にランクインしている、と伺いました。中村さん、まずこの賞について簡単に説明していただけますか。
中村
地域のプロジェクト数とプロジェクトに対しての興味や応募リアクションから、評価が高い地域を表彰しています。
加藤さんが話していたように、魅力だけでなく本音の部分も伝えられていると、やはり評価が高い。良い例をモデルケースにすれば全体のクオリティも上げていけるという意味で、ランキング化させてもらっています。
ー豊岡市は2022年の上半期も2位になっていますよね。『SMOUT』でプロジェクトを立てる際に、工夫していることや気をつけていることはあるのでしょうか。
中村
そうそう、ちょっと攻めているというか、クリエイティブな募集がすごく多いですよね。情報収集や編集はどんな風に行っているのか知りたいな、と思っていました。
沖中
地域の団体や観光協会に声をかけてもらい、ヒアリングしています。たいてい入口は「何かに困っているから助けてほしい、手伝ってもらいたい」という話なんですよね。でも、それをそのままプロジェクト化して魅力のある募集になるかというと、そうではない。
「誰かに課題を解決してほしい」という一方通行から、「新しい価値を一緒につくっていこう」という、チャレンジしあう関係にベクトルを向けられる案件でしか募集しないようにしています。というのも、そこから何かビジネスにつながる形にしないと人は集まりにくいと思うし、来てくれても面白くないと思うんです。
中村
すごい......! 課題の短期的な解決や成果の数値化より、さらに先を見ている印象を受けます。予算や人材を、現状回復や現状維持のためではなく、投資思考で投下されているというか。
加藤
地域おこし協力隊として、投資してもらっている感覚があります。「ここを良くしてね」というより、「やりたいことをやって、いい結果が出るといいね」という環境です。
例えば、私は『SMOUT』に掲載されたDX化の募集で来ましたが、福祉や漁業や農業、色々なことに手を出しています。「この募集だからこれをしなくちゃいけない」という制限が無くて、何にでもチャレンジできている。他地域の地域おこし協力隊と話す機会があるのですが、豊岡市ならではの恵まれた状況だと思いました。
今後は、自然が豊かで多様性を認めてくれる豊岡市を「日本の北欧」にしたい、と思っているんです。豊岡市に多様な人が集まり、気付いたら住んでいた、という状況を目指して地域をどんどん発展させていきたい。今、家族7人でその野望に向かって進んでいます。
移住支援のインセンティブではなく、選ぶ価値基準の見える化が重要
ー最後に、『SMOUT』の理念ついてお話を伺いたいと思います。カヤックが『SMOUT』を単なるメディアではなく、「マッチングサービス」にしたのには理由があるとのことですが......?
中村
まず、一方通行に情報発信するだけでは、結果があまりついて来ないのではないかと思いました。そして、どんな条件で地域に興味を持ってもらえるのかと考えて、地域で活躍する人に話を聞けば聞くほど、インセンティブは重要ではないと感じました。
それらを踏まえて、「気軽につながれる場所の提供や、価値観の見える化と共有こそが大切なのでは」という仮説で、マッチングサービス『SMOUT』をつくったんです。
『SMOUT』のこの仮説に対して自分は手応えを感じていますが、実際に移住された加藤さんはどう思いますか?
加藤
その仮説はかなり当たっていると思います。移住支援のインセンティブだけで移住して家族みんなが幸せになれるかといったら、そうではないと思います。
まず、気軽につながれることが大前提としてあって、地域に興味が出たり、実際に見に行ってみようと思えるんです。その上で「いいな」と共感できる人と出会えるから、ミスマッチにならないし、面白く暮らすことができる。
沖中
僕も、『SMOUT』の仮説は全くその通りだと思いますね。
今、雇用も担当しているのですが、給与より「誰と何をするのか」が就業先を選ぶ基準になっている。すごく人間的だなと思いますし、移住においても一緒だと思います。そういう意味で、選ぶ価値基準を見える化する最適のツールが『SMOUT』なのかな、と思います。
ー今日のお話を振り返ってみて、『SMOUT』をひとことで表現するとどんな言葉が思い浮かびますか。
加藤
価値観に共感して、メッセージして、お互いに興味があれば一緒に住む。『SMOUT』は「人生をかけた婚活」みたいなサービスだな、と思います。
沖中
加藤さんとのご縁もそうですが、『SMOUT』で生まれた出会いによって、行政だけでなく、町全体が面白くなった。以前も言ったことがあるのですが、『SMOUT』と一緒に豊岡をつくってきたな、と思います。
さらに俯瞰した意見を言うと、『SMOUT』は地理的な情報ではなくて、地域や、そこで暮らす人の魅力を描き出す地図なのだと思います。そういう意味で、『SMOUT』とは「新しい日本地図」と言えるのではないでしょうか。
(取材・文 二木薫)
『SMOUT』クリエイターズインタビュー①
約4万人が利用する移住・関係人口のプラットフォームサービス『SMOUT』が目指す “データ活用×価値観のマッチング”