2022.11.16
#面白法人カヤック社長日記 No.111世界5億ダウンロード ハイパーカジュアルゲーム ヒットの裏側にあったもの。
ここ数年、カヤックの事業成長に最も寄与している事業のひとつがハイパーカジュアルゲームです。何度かカヤックニュースでもお伝えしていますが、全米No.1のタイトルを出すことができたり、2021年にはアプリダウンロードランキング日本企業1位に選ばれたりと、鎌倉にいながら世界で5億人もの人に遊んでもらっています。
そのハイパーカジュアルゲームを立ち上げたデザイナーの一人のインタビューが先日カヤックニュースに載ったのですが、それを読んで思ったことを今回の社長日記に書いてみたいと思いました。
マルチクリエイターとして挑む!
5億人が遊ぶハイパーカジュアルゲームができるまで
https://www.kayac.com/news/2022/09/interview_echigo2
お時間のある方は、上記の記事を読んでいただければと思いますが、お忙しい方のために、読まなくてもわかるように書いてみます。
この記事の中に、このような一文があります。
「要素を追加すると離脱されてしまうことがあります。」
これは、ゲームの開発過程において、良かれと思って機能を追加すると、却って遊ばれなくなってしまうという意味で書かれています。
実は、ハイパーカジュアルゲームが最初にヒットしたころ、僕はそのチームに提案しました。「せっかくひとつのゲームが当たったんだから、そのゲームエンジンを使って、IPに置き換えたら?」と。ちなみにIPとは知的財産(Intellectual Property)の略で、たとえばアニメや漫画の有名キャラクターなどです。つまり、ゲームシステムはそのまま、人気アニメのキャラクターと世界観を盛り込んではどうかということです。
人気アニメには世界中に熱狂的なファンがいますから、IP使用料を差し引いてもマーケティング上のメリットは大きなものがあります。すでにヒットしているゲームエンジンを横展開することになりますから、開発工数も抑えられる。
そう提案したところ、こんな回答が返ってきました。
「人気キャラクターのゲームにした瞬間、そのキャラに興味のない人、知らない人は遊んでくれなくなるんですよ。IPを使うということは、固定ファンには受け入れられやすい反面、ゲームを届ける対象を狭めてしまうので、ハイパーカジュアルゲームの世界では、逆にうまくいかないんです」
なるほど、そこまでハイパーカジュアルゲームというもののターゲットは広く考えないとだめなのか。つまり、最初から世界中の老若男女誰もが遊べる前提でつくらないと、そもそも成立しないものなのだなと。
カヤックには生粋のゲームクリエイターがたくさんいます。自分自身ゲームが大好きで、寝ても起きてもゲームで遊んでいるような人たちです。ただハイパーカジュアルゲームの場合、そうした生粋のゲームクリエイターが必ずしも開発に向くわけではないということがあります。ゲーマーにとっての常識は、必ずしも一般の人にとっての常識ではありません。ハイパーカジュアルゲームのような裾野の広いゲームでは、これまでの常識を一度取り払って考えてみる必要がある。
これまでのゲームをつくる感覚で世界観をつくり込んでしまったり、面白くしようとたくさんの機能を追加してしまうと、却って複雑になり、ユーザーが途中で離脱していってしまうということがある。
日頃はゲームをしていない人も遊びたくなるようなゲーム。その本質を突き詰め、遊びのエッセンスとなる部分だけを残して、その他のデザインや機能は一切省いてつくる必要がある。ある部分では、究極のクリエイティブともいえるかもしれません。
この過程を思い浮かべたとき、広告の世界においても時にそういうことが求められることがあるなと思います。伝えたいことはたくさんあるけれども、限られた条件や制約の中で、最も伝えたい部分だけを抽出してシンプルに伝えることで人の心を掴む。ひたすら削ぎ落としていくことがクリエイティブのプロセスにおいて重要です。
カヤックでは、創業時から広告事業を行なってきました。ハイパーカジュアルゲーム事業が生まれたのは、トップダウンの戦略ではなく、ゲーム事業部にいたメンバーたちのいわば遊びのような開発からでしたが、これは広告事業とゲーム事業という2つの主力事業がどこかで融合して、その余白から生まれたということなのかもしれません。
一流になるためには、何かひとつのことをとことん突き詰める。ひとつのことに集中せず、あれこれいろんなことに手を出すのは中途半端になりがちである。そんな考え方が一般的ではないかと思います。戦略とは絞ることであり、絞ってリソースを集中的に投下することで強みが生まれるからです。
投資家目線で見ても、選択と集中ができている企業を評価したくなります。特にリソースの限られたベンチャー企業では、まずは市場を絞り込んでニッチでNo.1を目指す方が利益率も上がります。逆に事業を多角化していくと、コングロマリット・ディスカウントという言葉があるように、企業価値は割り引かれて考えられがちです。
ただ今回のハイパーカジュアルゲームに関しては、広告事業とゲーム事業の間(はざま)のような事業であり、この2つの事業を手掛けていたから生まれた事業です。
つまり、いわゆる「選択と集中」の逆で、社員がやりたい事業を広く展開しながら、事業と事業の間(はざま)に新たな事業を生み出していく。これを仕組み化することができれば、それが組織戦略上の優位性になるということなのではないかと思うのです。
2014年に上場してから、グループ会社がかなり増えてきました。eスポーツの事業もあれば、ウェディングや葬儀の事業もあります。ますます何をやっているのかわからない、外から戦略性が見えにくい会社となってきました。
その中で、持続的に成長していくための鍵は、それぞれの会社間や事業間ごとのシナジーをどのように再現性を持って生み出していくかだと思っています。
カヤックが「面白法人」を名乗っているのは、自分たちが面白く働きたい、そして周囲にも面白いといわれ、その結果、誰かの人生を面白くできたらと思っているからです。ある意味、全力で面白く働くための場が会社であり、ハイパーカジュアルゲームのような事業が社員の開発から生まれたことは、面白法人らしいことだと思います。
それぞれの会社や事業の間から、どんな新しいものが生まれるのか。このあたりを今もろもろ仕組み化すべく動きつつ実験していきますので、良い成果が出るような仕組みがあったら紹介していきたいと思います。
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