2023.07.21
#クリエイターズインタビュー No.77人事徹底討論!〜後編〜【三井化学×面白法人カヤック】「面白い人事制度はどうつくる?」
コロナを経て、働き方に対する多種多様な価値観が広がるいま、社員のニーズやキャリアに寄り添う人事は、今後どう変容していくのかについて、「サイコロ給」や「ぜんいん人事部」など、ユニークな社内制度を運用する面白法人カヤックと、キャリア自律の支援ツール「キャリアのトリセツ」に取り組んだ三井化学株式会社の人事対談。
今回、焦点になったのは「キャリア自律を掲げると離職率が増えるのではという懸念に対する人事の考え方」や「人事はどこまで社員のスキルアップや制度づくりに貢献できるか」など。奥が深い内容になりました。(前編はこちら)
平石 章さん(左)
三井化学株式会社、グローバル人材部と人事部に所属。主に、従業員エンゲージメントとキャリア開発に取り組む。
柴田 史郎(左から2番目)
面白法人カヤック、執行役員 兼 管理本部長 兼 ちいき資本主義事業部長。2011年、カヤックに入社し、7年間人事を務めた。個人のnoteでも人事に関する多くの記事を執筆。
みよし こういち(右から2番目)
面白法人カヤック、ゲーム・エンタメ事業部長。今年2月までは長らくカヤックの人事を担当。これまで数々の面白採用を生み出してきた。カヤックの人事noteを運用していた。
松田 理沙子(右)(以下、「りっちゃん」)
面白法人カヤック、面白プロデュース部 ディレクター(兼YouTuber)。今回の三井化学さんの「キャリアのトリセツ グッドキャリア教授の赤ペン講座」のプロデューサーを務めた。
◆主体性を伸ばすと離職率が上がるのでは?という懸念に対する考え方
―前編では、「キャリア自律」によって、どうやって社員の主体性を高められるか、ということを話しました。主体性を持って欲しいというのは、カヤックも三井化学さんも共通だと思うんですが、一方、主体性を持たせると、会社を離れていってしまうんじゃないかという懸念もありますよね。その点はどう捉えていますか?
平石
確かに、主体性を持つと離職率があがるのではという懸念もあると思います。あくまで個人的な意見ですが、会社が主体性を高める支援をするということは、従来のように社員を囲い込むのではなく、「自らのキャリアを考えてください、そのうえでうちを選び直してください」というメッセージにもなると捉えています。ですので、会社としても選ばれるようにしなければならないし、それがいい会社であり続けようとする、原動力になると考えています。そういう自律意識をもった社員に選ばれる会社にしていきたいです。
―なるほど、それって回り回って結局自分の会社に良い人材が回ってくるという仕組みになるかもしれないですね。
平石
そうですね、弊社がその取り組みを推し進めることで大企業間では差別化になる気がしています。カヤックさんみたいに魅力的な人事制度を持つこともそうですし、良い会社であることを発信していかなければならない、というイメージです。「キャリア自律」の促進には、それだけの覚悟をもって取り組んでいくものなのだと捉えています。
―カヤックはどうですか?入社式で新入社員に「退職届」を読んでもらうという、ぶっとんだ習慣もありますが、離職についてはどう考えていますか?
みよし
カヤックの卒業を本人が決めたなら、特になにも言わないですけど、「入社式の退職届」については、辞めて欲しいかと言われるとそうではないんですよね。よく勘違いされますけど。苦笑
柴田
「退職届」を新入社員に読んでもらう時に、社長は「長く働いてくれてもいいんだけどね」って毎回ちゃんと言ってるんですよね。でも大体みんな5年くらいで辞める前提の退職届しか読まないんですよね。苦笑
定年まで勤め上げましたっていう「退職届」を読んでもいいんです。
りっちゃん
確かに・・・!
みよし
そこはバイアスかかり過ぎてますよね。
柴田
これでも鎌倉に本社ができてから、1.5年くらいは在籍年数が伸びてはいるんです。笑
みよし
やっぱり、仲間がやめることは悲しいですからね。
会社がその人にとって意味があるならいいけど、その人が意味がないなと思ったら辞めればいいと思います。ただ、この会社にいたいなって思う会社であって欲しいとは思います。
◆スキルとキャリアをキャラクターとして捉えた「キャラクターシート」をつくってみたら社員が面白くなる!?
―最近、企業の人事の新たなトレンドとして、「リスキリング」を目的とした「サバティカル制度」の充実などが求められていると思います。そういった「会社が人を育てる、成長させる」という人事の新たな役割については、どう考えていますか。
平石
そうですね、英語などの具体的なスキルは、個々人で自由にやってもらっていて会社はサポートをする程度なのですが、弊社では、成長に対するマインドセットに関しては、新入社員の時から重点的に取り組んでいます。
「7つの習慣」という本があるのですが、その本を元にした研修をしています。木に例えていうと、外側に見えているスキルや経験、能力は、いわゆる葉っぱや枝で、プロフェッショナルであるためのマインドセットが木の根っこの部分にあたるという考え方です。
根っこをしっかり育むことで、あとはそれぞれのキャリアに合わせて葉っぱや枝を伸ばしていって欲しいと考えています。
みよし
私個人としては、「キャリアはキャラクター」と言っています。
昔、スキルやエピソードといった「その人らしさ」が見えてこないと、周りから面白くないなって言われました。苦笑
今は少し変わってきている部分もありますが、今でも「あの人面白いことやってるな!」という周りからの評価は、そういったキャラクターがあったり、セルフマネジメントしてそのスキルを発揮できていたりするからなのだと思います。
私はいまゲーム・エンタメ事業部の部長になったので、部内の社員のスキルをキャラクター化した「キャラクターシート」を作りたいなと企んでいます。笑
―カードゲームみたいで面白いですね。新しいスキルをその人が手に入れていたら、そのキャラクターカードがパワーアップしたぞ!みたいな感覚でしょうか。笑 りっちゃんの所属する「面白プロデュース事業部」ではどうですか?スキルアップにつながる仕組みなどありますか?
りっちゃん
私は、「スキルコンパス」というツールを使っていました。新卒の社員が自分のスキルを楽しみながら客観視できるようにつくったツールで、メンターの先輩と1on1で話す時に、このコンパスを見ながら、自分の伸びたスキルをゲーム感覚で可視化しています。この部分が伸びたね、足りないね、という俯瞰もできるし、モチベーションにもつながっていたと思います。
◆「考え方を説く」と「制度」の両刀で、新しい制度が社員から偶発的に生まれていくよう仕向ける
―前編も含めて振り返ると、人事は「制度やツールをつくる」だけでなく、土台となる「考え方の布教」との両刀使いで社員にアプローチしていく必要があるのだなと思いました。ただ、三井化学さんのような大きなグローバル企業では、社員全員への浸透ってかなり難しいと思うのですが、いま考えていること、ポリシーなどあれば教えていただけますか?
平石
人事の中で、人事には、警察と泥棒がいるよね、という話をよくします。
警察=制度つくって、それが守られているか、運用されているか監視する役割の人
泥棒=その制度の間をかいくぐってゆらぎを起こす役割の人
というイメージです。
みんなの行動を変えていく文化づくりには、警察、泥棒どちらも必要ですが、私は、制度をゆるがすほうが自分には向いているし、会社の中ではそういう役回りのほうがいいのかな、と思っています。
現行の制度を揺るがすのは、社員がどう反応するかを見ながらなんですが、それによって、「こんな制度のほうがよくないですか?」とか「こういう仕組みをつくってみたら面白いんじゃないでしょうか?」みたいに、社員から議論が巻き起こって、制度に影響してくると、会社が面白くなっていくような気がしています。
柴田
制度づくりに関しては、表面的な面白さだけでもいいから社員みんなが盛り上がるものを出してくれたら、人事的にどういう意味があるのかは後付けで考える、ということも1つのいいやり方だなぁと思います。後から、人事的にも意味があれば予算をつける、みたいな。
みよし
ちなみに、カヤックに関しては、キャリアに関する思想はあるけど、制度は充実してなくて、どうしても考え方の話になりがちですね。笑
それは、他社と考えている時のフレームワークがかなり違う会社だからだと捉えています。
組織って、大きく2種に分類されると思うのですが(下の図)、企業となった時、通常は右側の「カンパニー(ピラミッド型)」だと思うんです。
みよし
それに対して、カヤックは左側の「コミュニティ(共同体)」みたいな方向だよね、と話しています。そうなると、新卒や中途入社の社員を迎える時、世の中的には「カンパニー」型の組織に入るんだという気持ちになるところを、「そうではなくて、カヤックはコミュニティ組織だよ」という説明をしっかりしないと、うまく馴染めないんですよね。
なので、社長含め、社員全員から4半期に1度、フィードバックを受けられる「360度フィードバック」という制度も、このコミュニティという土台の考えがあるからこそ、成り立っていると思うんです。土台となる概念がないと、浸透していきませんし、制度と仕組みのひとり歩き問題になってしまうと考えています。
◆これからの人事がやっていくべきことはなにかー
―人事って奥が深い・・・!最後に、時代や働く人の価値観がどんどん変化しているこの世の中、これからの人事でやっていくべきこととはなんだとお考えでしょうか。それぞれ1つ挙げるとしたらなにか、教えてください。
柴田
私がまさに体現していることなのですが、自治体や他の会社に出向して働いてもらうといいと思います。1社だけ見るかどうかと2社見るかどうかはかなり違うと思います。転職ではなく、両方やると比較ができるので、学びの速度が速いと思います。ただし、副業ではなく、入り込むということが大事なのだと思います。
みよし
人事というか、ゲーム・エンタメ事業部の事業部長になって思ったことなんですが、社員一人ひとりが幸せであって欲しいと思いながらも、集団全員の幸せを考えるのは難しいと思いました。人事は個々の社員がいい感じになることを考えることだったんですが、事業部全体のことを考えると、おのおのにやりたいことや目指していることがあって、でも、事業全体で目指したいこともあるので、そこでズレや矛盾に葛藤することがあります。苦笑
なので、例えば、社員と喋ったことを社内ラジオで話して、仲間で「それいいね」と言っているうちに、いつの間にいいものができていた、というのがスピード感もあって面白いのではと思っています。
平石
弊社も実は社内ラジオを始めたんです。「エンゲージメントラジオ 心を燃やせ」というタイトルでやっています。人事がパーソナリティとなり、組織のリーダーをゲストに呼んで、心を燃やすためにどんなことやっているかを語ってもらい、社内に流す、ということをやる活動です。
社内でそれぞれの部署を盛り上げていくことは、もしかするとリーダーの仕事かもしれませんが、人事はフラットに見られますし、他の組織では知られてないすごい取り組みを社内でシェアしていくことで、会社全体に貢献できるのかなと信じています。
―面白い人事の仕事が見えてきてワクワクしました!これからも大きく変わっていきそうですね。ありがとうございました!
取材・筆:面白法人カヤック 広報 渡邊好惠(ぴーち)