2025.04.14
#面白法人グループインタビュー No.3歴史ある真面目法人が面白法人グループへ参入したら......? 新生「KAYAC SANKO」への道
2025年4月14日に創業60周年を迎え、新社名となった「KAYAC SANKO(カヤックサンコー)」。節目を記念し、代表取締役の宇野さんとPMIを担当した面白法人カヤックの佐藤が、M&A当初の心境やPMIプロセスについて振り返りました。異なる血が交じり合う難しさ、葛藤の中から生まれた変化とは?

株式会社KAYAC SANKO
1965年に創立以来「三方良し」の精神のもと、広告事業・eスポーツ事業・マンガデザイン事業を展開。近年では、クライアントの課題解決を中心とした広告会社、マーケティングパートナーという立場に加え、コミュニケーションを通して世の中への新たな価値をつくるコミュニケーション企業へと発展しています。
これからも社員、パートナー、クライアントと、価値ある社会を「ともにこえてつくる」ことに挑戦し続けます。
M&A当初はアレルギー反応も?!

ーまず、2020年のM&Aについて伺えますか。5年を経た今、「ようやくスタートラインに立った」と宇野さんはおっしゃったそうですが、どのような心境だったのでしょうか。
佐藤
最初にM&Aの経緯を話すと、カヤックはeスポーツ領域への投資のためSANKOの子会社であるRIZeST(ライゼスト)の取得を考えていたんです。その流れの中で、一緒にグループ入りしてもらったんですよね。
宇野
はい。どちらかというと、お見合い結婚的な印象でした。
恋愛結婚ではなくても相思相愛になれますが、相手への理解や感情の動きの時間軸が違いますよね。相手をジワジワと理解し、関心や感情が高まっていく。だから、いきなりシナジーを生むのはすごくハードルが高いと思っていました。
M&Aのタイミングで私が事業承継したことも、難しさのひとつになっていたと思います。内部昇格して組織のトップになったのですが、私自身の目線の整理がついていない段階でカヤックから役員が二人現れて、「シェフはいっぱいいるけれど、いったい何料理をつくればいいんだっけ......」といった状態でした。
佐藤
eスポーツ領域の合併に対しては事前に議論し、戦略をしっかりと練ってからマージされていったのですが、SANKOの運営に対してはいきなりカヤックのコアな部分をぶつけるようなオペレーションになっていました。PMIの最初のシーズンで、カヤックの代表の一人でもある久場が直接運営に入るというのは他に例も無く、期待の表れでもあったんです。良かれと思ってしたことが、かえって「劇薬」のような形になってしまったというか......。
宇野
組織も人のからだも同じで、血液や細胞が入れ替わる時って時間がかかるじゃないですか。組織という生命体として、短期間のPMIで一気に進めようとしても無理があったのでしょうね。
佐藤
途中から、ガバナンス機能とマネージメント機能を分けることにして、執行役員制度を導入しました。カヤックは株主として管理監督しサポートしていく側面はしっかり果たすので、執行はあくまでもSANKOの中のオペレーションに任せる形になりました。
ー組織文化の違いから、「何それ?どういうこと?」と驚くことも多かったそうですね。
宇野
SANKOは、何事にも真面目に向き合ってコツコツ追求する文化なんです。悩みのサイクルにはまった時にはカヤックメンバーに相談してブレストしていたのですが、なんだか噛み合わなくて......。
ブレストの良さを分かっていなかったことも一因でした。「こうしたら、ああしたら」とアイデアベースで次々に言われると、「気軽に言うけれど、誰がどう責任を取るんですか」と思ったし、何でも「それ面白いね」と言われると、「こちらは真剣に悩んでいるのに」という気持ちになることも多かったです(笑)。
佐藤
これって、カヤックの身の回りによく起きている「アレルギー反応」なんです!
僕らは「面白がること=主体的であること」が社会的に重要な姿勢だと思っているし、誰にとっても害は無いものだと思っています。だけど、カヤックにきちんと向き合って理解しようとしてくれる人たちが、カヤックを誤解するシチュエーションを山ほど見てきました。
だから、僕が最初にやらなきゃいけないのはアレルギーの元になっている誤解を解くことだと思っていました。「主体的であること」は、宇野さんたちにもシンパシーがあるコアだと思っていたので、僕が役員になるタイミングであらためて「会社説明」をさせてもらったんです。
2023年、「組織の翻訳者」の登場で関係が深まった

ー佐藤さんによる「会社説明」で、カヤックへの理解がぐっと進んだのだとか。
宇野
はい。一番の誤解は、「面白い」という形容詞でのアウトプットを求められていると感じていたこと。「面白がる」って、動詞なんですよね。主体的にどう向き合うかというあり方の話なんです。翻訳してもらったら、実はSANKOが言っている「三方よし」の精神と一緒だと感じたんです!
「まず自分たちを磨いて、相手を光り輝かせ、社会に光を届けていく」という私たちの考え方。「まず自分たちが面白がって、相手に面白いねと言われて、社会を面白くする」というカヤックの考え方。両方ともちょっと表現が違うだけだったんだな、と。そこから、気持ちが一気に変わりました。
佐藤
ブレストも、本来は「面白いことを言わなくてはいけない」というプレッシャーから解放するためなんです。別に面白くなくてもいいわけですよ。自分が面白がる、主体的で創造的なシーンを取り入れようと思ってブレストするんです。
宇野
そうなんですよね。カヤック代表の柳澤さん(以下やなさん)から「自由にやってもらいたいけれど、ブレストだけは続けてね」と言われていたので、この5年間週1回は必ずブレストをし続けていました。最初の頃は「議論」になってしまったけれど、今ではもっと気軽に発言できていると思います。カヤックのグループ経営会議に出てみると、お題の出し方とか進め方とか、空気感も全然違うので、その良さを持ち帰って社内でブラッシュアップしています。
佐藤
SANKOと月に一度はコミュニケーションさせてもらっていますが、面白がることを自然にできる人たちだし、もうアレルギー反応も違和感も無いですよね。
宇野
はい。最近では、「それ面白いね」という言葉が自分たちの会話の中に自然に増えてきたんです!
こういうことを、M&Aの最初に話せていたら......(笑)。M&Aや組織をマージする時には、組織の翻訳者が成功の鍵を握るんだなと実感しました。
佐藤
宇野さんから「他のグループ会社にも組織の翻訳をやるべき」と言われましたよね。今は、カヤックを知ってもらう機会をPMIプロセスにしっかり入れているんです。
宇野
そうなんですね。組織のトップが意識変容すると、色々なことがすぐ変わっていきますよ。
例えば、M&A直後に社名変更の提案をいただいていたんです。たしか「カヤックセールス」かな、ちょっと機能的な名前でしたね。その時は、社名を変えることが心理的に難しく感じましたが、意識変容後は様々な抵抗感がどんどん薄らいでいきました。
佐藤
カヤック側も最初は理解が進んでいなかったと思います。先ほどの社名の話もそう。SANKOのケイパビリティとは「営業力」だと伝わっていました。営業がうまいみたいだから何か売ってもらおう、と。でも、営業と言っても、単にものを売ることとは違う側面が多々あるじゃないですか。
だから、宇野さんが積極的にSANKOメンバーとカヤックとの接点をつくってくれたことに感謝しています。複合的なコミュニケーションのおかげで、お互いの理解がぐっと深まりました。
葛藤をこえて組織の成長へつなげる

ー2025年4月14日、創業60周年のタイミングで「KAYAC SANKO」へ社名変更されたのですよね。この社名変更にはどんな想いがこもっているのでしょうか。
宇野
一時、SANKOとは全く違う社名も考えましたが、「三方を光り輝かせる」という理念が体現されている名前なので大事にしたいというこだわりがありました。カヤックへの理解が進み社名変更する心の準備ができたあたりで、「KAYAC SANKO」がストレートでいいなと。
それぞれのいいところをドッキングする、という意味を込めました。まず向き合って、一緒に何かを紡いでいければいいな、という気持ちです。
佐藤
僕も、自分自身で会社を創業してカヤックに統合した経験があるんです。その時にも思ったし、常々思うけれど、社名とはアイデンティティそのもの。だからすごく特別なんですよね。社名変更って、売りやすいからとか、理解してもらいやすいから変えるとか、そういう話でもないし。
その理解があるから、カヤックという名前をつけてくれた重みや、安易ではない選択をしてくれたことに感謝しています。グループ全体でバリューをあげて応えていきたいです。

これまでの「三光」の文字が2セット組み合わさってできていたロゴを、今回のタイミングで「三光」と「面白」の組み合わせに変更。全体の佇まいは変えることなく、面白法人グループの魂もまとった新しいロゴとなった。(CD 阿部晶人、デザイナー鈴木 菜々子)
ー今後の抱負について聞かせてください。
宇野
今までは裏方としてクライアントの広告プロモーションやアウターのブランディングをやってきましたが、今は社内のインナーブランディングを特に強化しているところです。そのプロセスそのものを、新しくサービス化・事業化していきたいんです。事業承継もM&Aも、今後日本中でどんどん起こってくるはずなので、他の中小企業に転用できればいいなと思っているんですよね。
ブランディングは、カヤックの持つ資産。そういう意味でも、カヤックの冠が社名についてくるのは、ブランド力という意味で安定感があったり、心強さがあったり、後押しされている感じがあります。自分たちが主役になり表舞台に立った時や、裏方とは違う形で力を発揮したい時に、カヤック的要素は大きな強みになると期待しています。共有してもらった知見を生かしながら、貢献できるサービスを増やしていきたいです。
佐藤
面白法人グループにいるからこそできることがたくさんあると思うので、必要な制度やリソースがどんどん使えるような形にしていきたいです。グループとしても、新しいチャレンジに人材や知見を投資していきたいムードはすごく強いんです。
カヤック側の今後の話をすると、コーポレートコミュニケーション・コーポレートセールスを強めていく予定です。やっぱり、カヤックと面白法人グループの翻訳能力自体をあげないとダメなんだと痛感したんですよね。2024年の9月から、そのためのトレーニングコースをつくりました。タスクフォースをあげて、そこにカヤックの中核メンバーや次の経営層に当たるような人を全部入れて、面白法人とは何なのかを説明できるようにする機会をつくっています。
まずはカヤックの本体を中心にトレーニングしていますが、それをグループ会社全体に広げたいです。例えば、グループ会社は20社あるけれど、その20社の経営者、事業の先頭に立っている人たちが、面白法人グループをうまく翻訳できるような形にしていきたいです。最終的には、面白法人グループの全社員がコーポレートセールスできるようにしていけたらと考えています。
ー葛藤と地道に向き合って、組織の成長につなげてきたのですね。最後に、宇野さんが感じる面白法人グループの魅力について教えてください。
宇野
何が入ってるかよく分からないけれど、受け止めてくれる大きな器がある。その器に何を入れても怒られないし、逆にどんどん広げていってくれる。その器の広さと深さは、最初の想像以上でした。そこが一番の魅力です。
それから、カヤックの忍耐力がありがたかったです。他の会社と一緒になっていたら、早い段階でお互い見切りをつけるか、相手のスタイルに完全に合わせてくれと言われるかして、うまくいかなかったかもしれません。いい意味での緩やかさや、全ての状況を面白がる強みに救われたと思います。
佐藤
こちらこそ、一緒になったからこそ気づけたことがたくさんありました。これからもよろしくお願いします!
(取材・文 二木薫)
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