予測できないほど豊かな未来へ。カヤックと英治出版による新しい形の事業承継とは | 面白法人カヤック

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2025.03.07

#面白法人グループインタビュー No.2
予測できないほど豊かな未来へ。カヤックと英治出版による新しい形の事業承継とは

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1年前の2024年2月、カヤックと英治出版のM&Aが締結され、かつてない新しい形の事業承継に注目が集まりました。「黄金株を残した子会社化」「組織の結婚式」はなぜ行われたのか。今後の展望や面白法人グループに入る意味について、英治出版代表取締役社長の高野氏と今回のM&Aをフロントで進めた面白法人カヤック・グループ戦略室の丹治にインタビューしました。
(※ 本インタビューは、2024年7月に実施されたものです)

英治出版・代表取締役社長/高野達成氏(右)、面白法人カヤック・グループ戦略室/丹治拓未(左)

英治出版

人・組織・社会の未来づくりを応援し、ビジネス書・社会書をはじめとする書籍の出版を行っています。それにより、人間的な経営や自律的な組織づくり、イノベーションや事業開発、ソーシャルビジネスや世界の諸課題への取り組み、個人の行動変容など、よりよい未来をつくろうとする動きやムーブメントを後押ししています。また、組織改善プログラムの共同開発、シェアスペースの運営等、本や出版の本質的価値を大切にしながら、それを生かす新たな可能性を探求しています。

「主体性」と「らしさ」にこだわり抜いた事業承継

ー事業承継において気になっていたことや、不安点はありましたか。

高野
英治出版にとっては、代表も株主も変わるという全く経験の無い大きな変化だったため、まず「M&Aそのものに対する漠然とした不安」がありました。
事業のあり方にこだわりを持ち、愛着を感じている社員が多いので、「これまでの組織文化が壊れてしまうのではないか」とか「もし上場企業の下に入ったら、目標や数字の達成で大変なことになるのではないか」など、メンバーの中にも色々な懸念があったと思います。

丹治
たしかに、M&Aという言葉自体に「獲って食う」ような肉食系のイメージがありますよね。だからこそ、カヤックではM&Aを「仲間づくり」だと表現しています。それぞれのあり方に共感し合いながら事業成長し、社会に対してインパクトを与えていくという決意を込めて使っているんです。

ーM&Aに至るまでの経緯について聞かせてください。

高野
初期の段階では、100%子会社になるとは考えていませんでした。まずは事業面でコラボレーションして良い関係ができたら、株主になってくれるかもしれないと思っていたんです。初めての顔合わせから2ヶ月ほどで面白法人グループ参画の提案をいただいたので、「話が早いな!」と驚きました。

丹治
一緒になって本当に幸せになれるのか、お互い進化できるのか真剣に見極めていくためにも、踏み込んで話を進めていきました。100%子会社化の提案に対して「実現したい経営スタイルやガバナンスのあり方の整理をした上で」とおっしゃっていたことが、最終的に黄金株(拒否権付株式)の話に落ち着いたんですよね。

高野
はい。「ブランドやパーパスを守るための黄金株」というと一見外からの脅威への対策のようですよね。でも、そこから考えていくうちに、実現したかったのは「主体性をなくさずに自分たちらしさを保つこと」だと気づきました。その結果として、事業の在り方や経営に能動的に関わっていく仕組みを設計しました。

ー「社団法人に1株の黄金株を残した子会社化」は、M&Aでもかなり珍しいそうですね。

丹治
カヤックにとっては、メリットだとも思います。この仕組み自体に社会的提案性がありますし、わざわざこのような形にすることが、英治出版の皆さんが会社を大事にして、いいコンテンツを主体的につくり続けたいと思う熱意そのものだと感じられたからです。

高野
黄金株のアイデアを社内で話した時は、「それはカヤックさんもさすがに無理だろう」と言われました(笑)。本当に、「英治出版らしさ」をそのまま受け止めてくれたからこそできたことだと思います。

M&Aプロセスは仲間づくりのプロセス

ーM&Aを進める中、ユニークな儀式も行われたとか?

高野
組織の結婚式」を行いました。英治出版の新刊『「儀式」で職場が変わる―働き方をデザインするちょっとヘンな50のアイデア』から担当編集者が考えたアイデアを、実施してみたいと提案したんです。

丹治
クロージングに向けた契約の交渉でバタバタなタイミングだったのですが、英治出版さんの組織文化である「Eat your own cooking(出版して提案するものは自分たちも導入できるものであるべきだ)」という考えを伺って、ぜひ一緒にやってみようと思いました。

ー「組織の結婚式」とはどのような儀式なのでしょうか。

丹治
企画のポイントは、M&Aのフロントメンバー以外にも新しい「変化」と「機会」を意識づけ、ひとりひとりがお祝いの主役になること。お互いの文化をよく知り、それを誇れるような場、思い出したら力になるような場をつくりたくて色々アレンジしました。

高野
本に書かれている「組織の結婚式」は、経営者同士の誓いの言葉やケーキ入刀、乾杯くらいでシンプルでした。祝電披露、カルチャーマップのアンケートとマッチング、ブレストはオリジナル企画です。盛り上がったり涙したり、本当にやって良かったです。
印象的だったのは、「社員全員が主役」というコンセプトがM&Aのフロントメンバー以外から出てきたアイデアだったこと。英治出版のひとりひとりが、M&Aに前向きに取り組めているのがよく分かった機会でもありました。

丹治
M&Aプロセスは、仲間づくりのプロセスでもあるんですよね。お互いの組織文化を尊重しながら面白い「関わりしろ」をつくる機会があり、すごく良かったと思います。

高野
カヤックさんのプロデュース力のおかげで、充実したものになりました。

丹治
「組織の結婚式」の件に限らず、カヤックには「やるからには自らのめり込んで面白がろう」という文化があります。プロセス自体を自分ごと化するためには、どんどん入り込んでみるのがいちばんです。
例えば、僕は本が好きですが、出版ビジネスに対する知識がほとんどありませんでした。そこで、英治出版さんの売上を5〜6年分くらい独自に分析して、特性や構造、ビジネス仮説などを、役員会や投資委員会向けに自分の言葉で語れるくらいまで整理しました。今では、監査法人にどの数字を見てほしいか説明することもあります。

高野
何年も弊社の経営に携わってきたかのような理解度を見て、「これだけの関心と熱意がある人が役員に入ってくれるなら大丈夫だ」と安心できました。
あと、クロージングの1、2ヶ月前だったと思うのですが、お持ちの英治出版の本を並べてあらためて眺めたと聞き、純粋に嬉しかったです。「これから仲間になるんだ」と思ってくれている光景が目に浮かびました。やっぱり、人の要素は大きいですね。丹治さんがいたからこそM&Aが成り立った部分も多いと思っています。

ビジネスも組織文化もかけ合わせることで豊かに

ーM&A締結から4ヶ月ほど経ちましたが、現在はどのようなフェーズでしょうか。

丹治
上場企業としての経理の仕組みや法律上必要なことを整えたり、新規事業について話し合っています。つい最近英治出版さんの株主総会が開かれ、高野さんが代表取締役に就任されました。本当に、新たな門出のタイミングですよね。

高野
はい。出版業界は右肩下がりではありますが、自分たちが伸びていく余地が無いとは思っていません。今まで掲げてきたことを大切にしながらカヤックさんのスタイルも取り入れて、新しいことにチャレンジしていこうと思っています。出版は、その他の業態とかけ合わせて展開できる可能性が大きいので、事業領域の広いカヤックさんは最適な相手なんです。

丹治
出版業界自体は右肩下がりでも、英治出版のアセットやリソースを活かした成長可能性は様々な領域にあると思います。そういったこともグループとして一緒に見出していきたいし、「出版や本そのものの新しいあり方」を提案できるビジネスをつくっていきたいですよね。英治出版さんの事業は、本質的にビジネスコンテンツの開発だと言えます。そこに、カヤックがエンターテイメントコンテンツの開発で培ったナレッジを適用できる見立てがあります。

ー何か具体的なアイデアが出ているのでしょうか。

丹治
個人的には、まずゲームをつくってみたいですね。ビジネス書を読んでも実践が難しいことも、双方向性があるゲームで遊ぶことによって、学習の効果が高まったり現実への繋ぎこみができると思うんです。カヤック内の、ゲームで課題解決する専門チーム「ゲームフル」に声をかけて進行しています。
本自体の価値も変わっていくと思っています。今までは大衆に向けてつくっていたけれど、特定の人たち向けで収益を得られる本ができるかもしれないし、電子化が進めば装飾的な意味合いや記念的な意味合いの本が増えるかもしれません。本が使えるシーンや可能性が広がる領域は、まだまだたくさん考えられます。

高野
本を通じて人がつながる効果と、地域事業をかけ合わせてみるのも面白そうですよね。

丹治
それもいいですね。僕が思った以上に、双方向での連携の可能性がありそうです。というのも、英治出版さんにはカヤックだったらつながれないような「感度の高い人材ネットワーク」があるんです。カヤックの教育コンテンツに、英治出版さんの人選で講師をアサインする企画も立てられています。他にも進めているプロジェクトもありますが、こういった場合にはもちろん対価をお支払いする座組みにしています。

ー様々なアイデアやシナジーが生まれつつあるのですね。最後に、面白法人グループに入る意味についてどのように感じているか教えてください。

高野
組織文化をかけ合わせた効果を実感しています。例えば、メンバーの会話の中に時々「面白がる」という表現が出てきたり、行き詰まったら「ブレストしよう」と声をかけたり、カヤックさんに対して「いいな」と思った経験がちょっとした行動の中に現れてくる場面があるんです。
僕は、企業が価値を生むいちばんの源泉は組織文化だと思っています。そして、組織文化はうまく掛け合わせればどんどん豊かになるものだと思うんです。一見何をしているか分からないほど多様性のあるカヤックさんのグループに入ることで、どんな未来が待っているのかは分かりません。でも、その未来がすごく豊かなものになるのは分かるんです。予測もできないその豊かさが、面白法人グループに入る意味だと思います。

丹治
多様であるからこそ、何をしているのか分かりにくいところもありますよね。共創を促進するためにも、もっともっと会話して関わっていこうとあらためて意識しました。信頼できる仲間が増えて、本当に嬉しいです。これからもよろしくお願いします!

(取材・文 二木薫)

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