世界の中国でブーンと叫ぶ!カンヌ受賞のVOICE DRIVER制作秘話 | 面白法人カヤック

Client Work

2014.05.15

#クリエイターズインタビュー No.24
世界の中国でブーンと叫ぶ!カンヌ受賞のVOICE DRIVER制作秘話

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2012年11月のイベント後、「Cannes Lions 2013」の2部門でブロンズを受賞。国内外で話題になった「VOICE DRIVER」が、この11月に広州モーターショーの東風日産ブースで再び展示されました。初の海外展示を成功に導くまで、その過程と苦労を、デバイスチーム(ディレクター深津康幸、エンジニア衣袋宏輝&村井孝至)に聞きました。

VOICE DRIVER
http://www.kayac.com/service/client/1018

「ワクワクするシステムをつくろう」から生まれた「声で走る車」

― 「VOICE DRIVER」は声で車を操りレースができるという体験型デジタルデバイスですが、まずは誕生した背景を聞かせてください。

深津
広告代理店のTBWA HAKUHODOさんを中心としたプロジェクトとして、「車離れが進む若者をはじめとした幅広い層をエキサイトメントさせ、日産の横浜ギャラリーに多くの人を呼ぶ企画」ということではじまりました。
村井
とにかく「ワクワクすることをやろう」と考えました。それが最終的に「声で走る車」をつくることへと到ったんですが、その頃は具体的な構想などはまったくなく、漠然とした状態でした。
何度か打ち合わせを重ねる内に、「声に反応して走るクルマを作れないか」というアイディアがTBWA HAKUHODOさんから出て、それを技術的に具現化していくにはどうしたらいいのか、どうすればリアリティのある体験として人に伝えられる形にできるのか。実車は無理でも大型ラジコンなどではどうか…と考えていた時に出てきたのが、「声の大きさで車の速度が変わる仕組みはどうだろうか、と言うアイデアでした。
子どもがミニカーを走らせる時にブーンブーンと真似る様子にも繋がりますよね。それですぐにテスト用にミニ四駆とコースを買い、実験を始めました。
衣袋
テスト中は突然大声で叫んだり、離れた場所から喋ったりしていたので、他の人は不思議だったと思います。2週間ほどでなんとか形になりました。

― 開発は順調に進んだんですか?

村井
今でこそデバイス系案件のノウハウの蓄積がありますが、当時はこれほどの規模でのデバイス企画はほぼ初めてだったので、毎日が試行錯誤でした。体験はシンプルなものでも、裏側では各システムが絡み合う非常に複雑な構造だったので、検証は特に苦労しました。エラーの原因がどこにあるか判断するのが難しいんです。

僕は、Webサイト用の予約システムと、ブラウザから受けた声を車に送る中継プログラムを担当したんですが、ここに衣袋のつくる、声量を測定して車の回転数に変換するプログラムがある上に、バックエンドでも別のサーバ処理用プログラムが動く状況だったので…。

衣袋
PCにWebサイト、iPhone、サーバでの遠隔通信と、いろんなスキルセットが必要な企画でしたからね。でも、村井さんはFlashとPCが強いし、もう一人はサーバサイドが強い。2週間に一度の割合で結合テストをしていましたが、それも各自の得意分野とチームワークで乗り越えられたんです。
結合しなければ正式な形でのテストができないのに、結合した状態ではエラーの箇所が見わけられない仕組みだったので、バラしてテストし、再結合し…というような地道な検証作業を何度も繰り返しました。
村井
僕は全員がつくるソフトの方向性や問題点や原因などを把握していたんですが、基本的には彼らそれぞれの設計を信頼していたので、あとはそれらをどう調整するかだけを考えていました。
衣袋
担当の責任も大きくて大変だったけど、仲もよかったし、コミュニケーションがよく取れたのがありがたかったです。楽しく制作に取り組めましたからね。

― 成果はどうだったんでしょうか?

深津
日産ギャラリーでのリアルイベントとインターネット上の24時間耐久イベントを2本立てで行いましたが、年代、国籍を問わず、多くの方々に楽しんでいただくことができました。
村井
声は誰でも出せるので、運転技術や免許がない人にもレースの楽しさを感じてもらえるんですよ。例えば、追いかけっこはレースのひとつだし、応援したくなるプリミティブな面白さもあります。子どもをお父さんが応援したり、あの友達には負けないなんて、小さな競争もあったりしました。
楽しんでもらえていることを実感できる、すごくいい仕事だったと思います。「ワクワクする体験装置をつくろう」というチーム目標も叶ってよかったです。

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日本と中国でつくりあげた、本当の意味での共同プロジェクト。

― その後、広州モーターショーでの展示依頼につながるわけですね。こちらはカヤックは監修という立場での参加ですが。

深津
カンヌでのブロンズ受賞を受けたおかげもあってか、お声がけいただきました。当初はカヤックが制作する予定でしたが、最終的には監修という立場でかかわることになりました。
今回はデバイスの強度が一番大きな問題で、10日間のモーターショーに耐えうる強度となると、開発に相当な時間がかかること、また現地での研修の必要なども出てきたんです。それならもう現地で制作してもらうのが得策だろうと。
ただ、仕様の説明だけですべてを任せると理解に齟齬が出る恐れもあったため、監修として関わらせていただく形にしました。

― 現地での反応はどのようなものだったのですか?

深津
コンセプトや企画自体は、東風日産の重役をはじめ現地の人々からもとても好評いただきました。現地の方の笑顔には新たな気合をもらいましたね。中国は、インターネット環境においてはある意味特殊な国なので、Web関連のプログラムにも関わる部分については最初は多少不安もありました。
村井
でも実際には全然問題なかったですね。ハードもソフトも現地仕様にしてもらったのですが、かなりのアップデート版ができていました。日本では使えない部品が使えたり、僕らの反省点を活かしたり、中国人の特性を考えた構造にしてもらえたのがよかったんだと思います。

― 現地の方とプロジェクトを進めるにあたってはどのような違いがありましたか?

深津
スケジュールの考え方は日本と違いましたね。日本ではまず、仕様をつくってスケジュールを引き、日程を区切って進めますが、中国は追い込み型なんです。明日本番だけど大丈夫? と不安になっていると、翌朝には仕上がっている。独特のスケジュール感だと思いましたね。
村井
でも、本番にはきっちり成功させていましたしね。終始そんな感じだったし、マネジメントの方法が日本とは違うんでしょう。個人的には新鮮で面白かったですよ。

― 今回、中国とやってみてよかった点はありますか?

衣袋
中国がものづくりに適した国だというのは実感しましたね。アキバが貧弱に思えるほどの広さの部品市場があるんです。日本ではコスト高などで躊躇しがちな部品も何度でもつくり直しでき、珍しい部品などもすぐ調達できることに驚きました。もう少しあの場所にいて、きちんと何かをつくってみたかったですね。
村井
モックづくりが低コストでできそうなのがいいよね。安いと試作回数が増やせますし、試行錯誤できる環境が羨ましかったです。

― 実際に現地でのイベントは参加されたんですか?

深津
僕は現地に行って見てきました。モーターショーの規模はかなりのものでしたね。実は会場の関係でリハができず、全体の完成版が見られたのは、当日のオープン直後でした。でも、日本でやった時以上の品質と構成になっていたのには感心しましたね。
村井
高速道路級の爆音が聞こえる会場という、過酷な状況を想定していたのも大きいでしょうね。カヤックからかなり厳しく監修していたこともありますが、バージョン2と呼んでも差し支えない改良版だと思いました。
深津
カヤックから問題や反省点を中国に伝え、中国で改善しよりよい部品を探して制作する。またそれに助言を加え…という、本当の意味での共同プロジェクトでした。片方の国だけでは、ここまでのものにするのは無理だったと思います。

― 2012年に日本、そして2013年に中国 広州と2つのプロジェクトを終えたわけですが、改めて作業や制作の感想を聞かせてください。

村井
中国は試行錯誤ができる国だと思いましたね。こんなふうに各国には特性があるはずなので、世界に目を向けて、自分に近い仲間を探せばすごく面白いコラボができるんじゃないかな。できれば、1カ月くらいデバイスチームを向こうに連れて行きたいですね。集中的に開発したらすごくいい成果が出ると思うな。
衣袋
僕らだけじゃプロダクトを100個はさすがにつくれないんですよね。でも今回のことで、中国でならそれも叶うんだという希望が沸きました。今後は広告もものづくり的な所に近づいていくと思います。この萌芽を垣間見られたので、来年はその辺りを狙いたいですね。
深津
今の中国は日本のバブル期に近い状況なので、今回のようなチャンスもいただけたんだと思います。日本のアイデアを高く評価してくれていることもわかったので、そこなら突っ込んでいける可能性もありそうかなと。将来的には、カヤックのオリジナル広告を中国で展開できたらいいですね。

みんなが妄想する「未来」を形にする仕事

― 「VOICE DRIVER」はカンヌの他、「DIGITAL ASIA FESTIVAL 2013」などいくつかの広告賞を受賞しました。

村井
VOICE DRIVERは「広告」という呼び方が正しいのかどうかわかりませんが、「わかりやすさ」が響いたのではないかなと。昔の広告は写真とコピーに共感するものだったと思いますが、それが体感する時代に変わってきてるように思います。カヤックがそうした次世代の表現ができる会社だと伝えられたのでは。
衣袋
面白いものが出るとすぐ真似る最近の広告の傾向は気になりますけどね。プロジェクションマッピングが流行ればみんなそうだし…。最近未来のことを言う人が多いけど、広告の未来ってなんなんでしょうね。
深津
うーん、先取りするってことなんじゃないかな。今までになかったコミュニケーションの方法が大事というか。実際、ほかと同じことをやるなら広告に使う意味がないですからね。そういう意味でも、みんなが妄想している未来を具体的な形にして見せることが、このチームが続けていくべき仕事だと思っています。

次に彼らが「みんなの妄想する未来を形にする」のはどんなものなのか。(かなり近い未来にありそうな)チームの今後にご期待ください!

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