2018.01.27
#クリエイターズインタビュー No.53「ピカチュウトーク」に見るスマートスピーカーアプリ「ヒットの法則」
株式会社ポケモンが配信するスマートスピーカーアプリコンテンツ「ピカチュウトーク」。ピカチュウとの会話を楽しめることで大人気となったこのアプリコンテンツのプランニング・設計・開発を、カヤックでお手伝いさせていただきました。「ピカチュウトーク」誕生の軌跡を、カヤック開発チーム(村井孝至・君塚史高・黄辰琳)に迫ります。
スマートスピーカー黎明期に「ヒットするアプリコンテンツの法則」とは?
村井
昨年夏、ポケモン社の方からお声がけいただきました。「スマートスピーカーが秋に日本に上陸する。スマートスピーカー用の新しいアプリケーションをつくりたい」と。
それで、カヤックのメンバーで、音声認識デバイスの開発経験が豊富な君塚、GoogleのAPI.AI(現:Dialogflow)を勉強していた黄に声をかけて、ブレストするところから始めました。
スマートスピーカーって、いろんな可能性がありますよね。北米では音楽やラジオのプレイヤーとして使われることが多いのですが、スマートホームと呼ばれているように、照明や空調、テレビをコントロールするリモコンとしての役割もある。
ただ、やっぱりポケモンですから、シンプルにデジタルトイ(電子おもちゃ)という方向性がいいんじゃないかと考えました。原点に戻って、ポケモンとお話できるのが一番嬉しいはずだと。ポケモン社の方々とそんな話をして、ゴーサインをいただきました。
君塚
ブレストの前にまずやったのは、iPhoneが出た年のiPhoneアプリの売上を調べることでした。新しいデバイスが出た時に、どういうコンテンツがヒットするのか、何か傾向があるんじゃないかと思ったんです。
すると、初年度はとにかくわかりやすくて、仲間に自慢しやすいものがヒットしていたことがわかりました。
たとえばiPhoneの画面がビールジョッキの絵になって、みんなで乾杯できるアプリとか。全然役に立たないんですけど(笑)、初年度はそういうのが売れるものが使われるはずだという仮説を立てました。凝ったアプリが受け入れられるのは、デバイスが出現した2年目以降なんです。
村井
黎明期って、デバイスを買った喜びをシンプルに体験できるアプリコンテンツがヒットするんですよ。iPhoneがそうだったし。今まで出たデバイスはどれもそうだと思います。
まず顧客体験のゴールを決める
村井
これが初期のプランです。広告もソフトウェアのプランニングもそうですが、まずは「体験のゴール」を決めるのが大事だと思っています。このデバイスを使うと「こういうことができる」というデザインですね。
村井
いま国内でスマートスピーカーを購入する人は、マーケティングの言葉で言えばアーリーアダプター、つまり感度の高い層です。そういう人たちが「スマートスピーカーいいよ」「だって○○ができるからね」って、みんなにシェアできるコンテンツが大事だと思うんです。たとえば新しいものに敏感なお父さんが「ポケモンが家にきたぞ!」って、子供に見せられるようなアプリコンテンツ。そういうものが必要だろうなと。
ポケモンはキラーコンテンツです。誰でも知っている人気キャラクターですし、みんな大好きですから、たくさんアイデアが出ました。「電気をつけて」というと「ピカー」といって点灯するポケモンハウスとか、「お風呂入れて」というと火系のポケモンが出てくるとか。音しか聞こえないけど、家のどこかに住んでいるペットとしてのマイポケモンとか。
一通り考えた上で、やはり「ピカチュウトーク」だろうと、ポケモン社の皆さんと話して、プロジェクトがスタートしました。
開発からローンチまではわずか3ヶ月だった
―大変だったことは?
村井
スマートスピーカーという新しいデバイスで、 Google HomeとAmazon Echoで同時並行して夏から開発を進めましたので、それが大変だったかもしれません。
ピカチュウの声優さんが音声の収録をしてくださるので、そのスケジュールは絶対にずらせない。一方で、どんな言葉なら正しく音声認識されるのか、検証を重ねながら、プログラミングソフトウェアにとして落とし込んでいかなければなりませんでした。
君塚
「こう話しかけたら、こう答える」という特殊な台本をスプレッドシートで用意しました。コピーライターがそのスプレッドシートに入力してくださるので、それをもらって、ソフトウェアに落とし込んでいきました。ただ台本は最後まで変わりますから、最終的には、変更されると自動的にスピーカー用のプログラムにが変換される仕組をつくりました。おかげでギリギリまでブラッシュアップに専念できました。
村井
「インテント」という概念があります。たとえば、このペットボトルのお茶。「お茶」や「ウーロン茶」でもわかるし、商品名でも通じますよね。人間を相手に「それとって」「お茶とって」といっても、同じように、このペットボトルを渡してくれます。
この概念を「インテント」といって、それ一つの対象に対して、いろんな利用場面を想定しながら「お茶」とか「ウーロン茶」「青いボトル」という呼び方をつけ加えていくことで、スマートスピーカーが認識できるようになります。それをひとつひとつ設定していきました。
Google HomeとAmazon Echoでは、人工知能の音声→文字→意味認識というアルゴリズムが少し違います。どちらもピカチュウトークとして同じ体験にしたかったので、その点も苦労したことかもしれません。君塚がAmazon Echo、黄がGoogle Homeの開発を同時に並行して進めてくれました。
黄
Googleが提供しているドキュメントを一週間かけて読みました。GitHub(ソフトウェア開発プロジェクトのための共有ウェブサービス)にGoogleがさまざまなサンプルを共有しているので、調べながら開発を進めました。
村井
苦労はもちろんありましたけれど、ポケモンという世界的なキラーコンテンツに関われたことは、本当によかったし嬉しかったです。黄もポケモンの大ファンですし、仕事が楽しかったみたいです(笑)。
プロジェクトを通じて、たくさんの知見を得ることもできました。今後スマートスピーカー市場は盛り上がっていくと思いますが、従来のスマートフォンやWEBサイト、イベントやデバイスといったコンテンツ企画に加えて、スマートスピーカーのアプリコンテンツ制作を通じて、お客様のお役に立てればと思います。
上質な顧客体験 プラス ひとひねりの面白さ
村井
開発にあたって、カヤックとして意識したのは、UX(ユーザーエクスペリエンス:顧客体験)です。
君塚
ピカチュウトークを起動している時に、ユーザーがヘルプを出すと、ピカチュウが「ピカー」って答えるんですよ。するとスピーカー本体が「違いますよ、私を呼んでいるんです」といってヘルプしてくれる。そういうピカチュウとスピーカーの掛け合いを入れました。
村井
あたりまえなんですけど、スマートスピーカーって音声しかないんです。ヘルプを出した時に、いきなりスピーカーがしゃべり始めて、ピカチュウが黙ってしまったら、ポケモンの世界観が壊れてしまう。そのためには、ワンクッションとして掛け合いが大事だろうと。
君塚
VUI(Voice User Interface: 音声ユーザーインターフェース)という新しい概念があります。Google HomeやAmazon Echo、Siriの普及によって注目が集まっています。それをわかりやすく、世界観を損なわないよう、きちんと設計することにこだわりました。VUIと音声認識や解析技術を両立する開発ができることが、我々の強みかもしれません。
村井
声しか聞こえないのに、そこに本当にピカチュウがいると思わせるための仕組。たぶん、これが一番のポイントだと思います。説明書なんか見なくても、初めて触った方でも、ポケモンの世界観を感じてもらうことが大事ですから。その開発をお手伝いできたことは、とてもいい経験になりました。
Webにしてもスマホのアプリにしても、UXやUIの部分で、全体的に使い心地の良いものをつくることを心がけています。それにひとひねり、面白いものを加えるのがカヤックらしさかもしれません。
スマートスピーカーのアプリコンテンツでも、そういう顧客体験を生み出すことができたなら、とても嬉しいですね。