2021.06.11
#面白法人カヤック社長日記 No.88あなたの家の「家訓」、つくります。 鎌倉「HATSU」の起業家が増えているという話。
カヤックでは、神奈川県の委託を受けて、起業支援拠点「HATSU鎌倉」の企画・運営をしています。
「HATSU鎌倉」は、これから起業しようという人を様々な形でサポートする施設ですが、ほかの起業支援施設にない特徴として、地域のコミュニティで起業家をサポートする様々な仕組みがあることが挙げられます。つまり、鎌倉「HATSU」(発)の起業家を輩出することを目指す施設です。
たとえばスポーツの世界などでは、地元の選手が活躍すれば、地元の人みんなで応援したりしますが、起業家の場合、そういったことはあまり聞いたことがない。地元出身の起業家を応援する文化がもっとあっても良いのではないかと思います。
もし、創業時に地元の人にしっかりと応援してもらった体験があれば、将来成功した時、地元のことを大切に思うはずですし、なんらかのかたちで地元に還元したいと思うのではないでしょうか。地域に根付いた起業家を輩出することが、結果的に地方創生にもつながってくるのだろうと思います。
そんな特徴を持つ「HATSU鎌倉」もオープンして2年が経ち、ここを拠点に活躍する起業家も徐々に増えてきました。今回は、最近鎌倉に家族5人で移住し、夫婦で起業した関夫妻の話を紹介します。
関夫妻の手がける事業はユニークです。それは「急にお金持ちになった人がお金で不幸にならないための相談サービス」です。・・・というような言い方をしているわけではないですが、僕自身がそういうサービスだと理解しています。
この事業は、もともと銀行で同僚だった関夫妻の原体験から生まれた事業です。なんでも銀行員時代、様々な富裕層の資産管理をするいわゆるプライベートバンクと言われる業務を担当していたそうです。富裕層には、先祖代々富裕層という人と、会社を上場・売却したり、あるいは宝くじが当たったりして、一代で富裕層になる人がいるそうです。大金を得て家族が不仲になったり、不幸になるのは、後者の人たちが比較的多いことを目の当たりにしたとということです。
それは、お金に対する考え方やルール、家族理念や家族対話の有無に起因するのではないか? というのが関夫妻の仮説です。例えば代々富裕層の家には、昔から家訓のようなものが語り継がれているケースも多い。逆に、後者にはそういったものがないケースが多いので、お金が突然入ったことで、様々な問題が起きる人が多いというわけです。
それが事業のヒントになりました。急にお金(=物質的豊かさ)を手にしたことで不幸にならないように、お金にまつわる相談に乗ったり、時には、家訓(=精神的豊かさ)を、家族対話を通じて一緒につくりあげるサービスです。
面白い。家族にとっての家訓のように、会社も経営理念があるかないかで変わってきます。経営理念を一緒に考えてくれるコンサルティングサービスもあります。家族が何を大事にして、何を守るのか、一緒に考えて言葉にしてもらえると、これは安心です。「いい会社」にいい経営理念といい社外取締役が必要なように、「いい家族」を目指す時にも、いい家族理念と対話をつくりだす外部パートナーが必要かもしれません。市場規模は限られているかもしれませんが、人を幸せにしたいという思いは素晴らしいですし、同じ鎌倉企業として応援していきたいと思っています。
そこで、今回は、この事業への応援話を書いてみたいと思います。
「お金が入ると不幸になる」。この言葉から想起されることは、いろいろなパターンがあるような気がします。パッと思いつくのは、遺産相続でいがみ合って家族が崩壊する。これはよく聞く話です。でも、このパターンもある意味お金が入ったことで引き起こる問題ですが、どちらかというと分配の問題、つまり、自分だけが損したくないと言う思いが引き起こす問題でもあるので、もう少し別のパターンを考えてみたいと思います。
たとえば宝くじが当たった時とか、会社を上場・売却してお金を得た時とか、ある種、良い話でありながら、そうした人がお金で不幸になるというのはどうでしょうか。
これは難しい。
宝くじを当てた人が不幸になると言うような都市伝説は聞いたこともありますが、当てたことで幸せになっている人もいっぱいいそうです。それに、そもそも不幸かどうかというのは他人からはわかりません。
では、この言葉はどうでしょうか。「お金がたくさん入ると人が変わってしまう」。これはたしかにある気がします。周囲を見渡してみても、変わったなと感じる方もいますし、そんな風に言われている人もいます。
では、「お金がたくさん入ると人が変わってしまう」事象は一体どういうことなのか。
それは、お金が人を変えたのではなく、お金を得たことで、その人のもともとやりたかったことが表に出た。というだけなのではないかなと。
それは、たとえば、真面目に地道に暮らしていた人が、お金を得てイケイケになったり派手になったりすることもあれば、お金のためにバリバリ稼いでいた拝金主義者のような人が、安心することができるだけのお金を手にすることで急に慈善事業を始めることもある。
このどちらも、結局は人が変わったのではなく、もともとそういうことがしたい人だったのだろうと思います。そっちの方がしっくりくる。
そう考えると、僕らは、本当はこうしたいのに、経済的な足かせから知らず知らず我慢して、実現できていないことがきっとたくさんあるんだろうと思います。
我慢は決して悪いことではなく、我慢することが時に人への優しさ(=精神的豊かさ)を呼び、自身の成熟度を高め、時には周囲とのコミュニケーションを円滑にします。ところが、お金が入ることで、自分の欲望に忠実になり、その結果、人の付き合い方が変わったり、自分の属するコミュニティが変わる。それが「あの人はお金によって変わってしまった」と言われる事象なんだろうと思います。見方を変えれば、その人の本質が出るということなのかもしれません。
そう考えると、もし我慢し続けた状態で、お金が入ったら、コミュニティの最小単位である家族に変化が起きるのは十分にあり得ることです。変化そのものは悪いことではもちろんないのですが・・・。
会社も、家族も、良い時もあれば、悪い時もあります。全員の思惑が完全に一致することはあまりありませんが、でも、そもそもなんらかの共通する価値観があるから一緒になっているはずです。だったら、お金のあるなしにかかわらず、自分たちが本当に叶えたいことはなんなのか、経営理念なり家訓という形で言葉にしておくのは、本質を見失わないために大切なことのように思える。
会社でも創業者同士が揉めるのは、お金がない時ではなく、大金が入った時だと言われたことがあります。カヤックが「サイコロ給」をつくった理由のひとつでもあります。人間が人間を評価するなんていい加減なものだから、最後は天に託す気持ちでいれば、自分たちの貢献を盾に揉めることもないだろうと思ったのです・・・そう考えると、カヤックにとっての家訓のひとつはサイコロなのかもしれません・・・。
今回は以上です。
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