上場審査において「計画性」が問われる理由【 面白法人が考える上場の話#04 】 | 面白法人カヤック

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2023.05.16

#面白法人カヤック社長日記 No.119
上場審査において「計画性」が問われる理由【 面白法人が考える上場の話#04 】

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年初の社長日記「2023年の社長日記の決意。 ひとつのテーマで12ヶ月続けます。」で宣言したとおり、2023年の社長日記は、1年を通して「上場」というひとつのテーマを考えていきます。

上半期は「上場準備とその過程」のことを、下半期は「上場をしてから」のことを書くことにしました。ここまで書いてきたテーマは「上場理由をいかにして決めるか」(2月)「社外取締役の選び方」(3月)「資本政策について」(4月)。

今回のテーマは「計画」です。

計画性が最も重要である理由

上場準備中の最後の2年間は審査期間と呼ばれます。その名のとおり、上場企業にふさわしいかをしっかりと審査される期間です。

その審査項目には、内部統制がしっかりなされているか、必要なルールが揃っているか、コンプライアンスは守られているか、などさまざまなものがありますが、中でももっとも重要であり、苦労するのが計画の立案とその遂行です。立てた計画に対して目標とする進捗どおり実行されているのか、ということです。

この審査項目の重要性が、未上場企業と上場企業ではだいぶ異なるということを、上場準備段階の時にはあまり理解できていませんでした。

経営者であれば、誰でも、会社をつぶすわけにはいきませんので、赤字かどうかには敏感です。ただ、期初に立てた計画をそこまで重要視しているかというと、未上場の企業においては、そこまで意識してない経営者も多いのではないかと思います。

ただ、上場企業においては、株主は未来の計画に対して投資をするわけです。であれば、計画の立案と遂行は、最も重要なことの1つであり、この審査期間中に、投資家に約束した業績予想通りに経営を遂行する能力が一定基準に達しているかどうかがチェックされているということです。

ただ、計画を上振れもせず下振れもせず、とにかく死守するというのは難しさがあります。

経営する側の論理からすると、目の前に新たな事業チャンスがあれば、期の途中で予算を変えてでも投資したいケースもあります。でも、上場審査中なので、事業計画は原則、上回っても、下回ってもいけない。結果として、時に目の前のチャンスを見逃すように思える時もある。これは歯がゆい。これは比較的ポジティブな悩みにおける死守の難しさです

一方で、ネガティブな悩みの場合もあります。単純にそもそも計画どおりになかなかいかず、業績が未達になってしまうというものです。

その理由はさまざまですが、未達の要因が、自分たちの実力不足という内的要因のケースもありますし、期間中にコロナのようなまったく想定してないことが起きることで未達になるケースもあります。

あるいは、これは経営者にありがちですが、経営者は背伸びをした計画を立てがちです。ストレッチするから皆が成長すると思っていたりする。その証拠に、意外と、毎年、計画が常に未達成のまま着地するみたいなケースも意外と多くありませんか。自分たちが成長するために高い目標を掲げる。これはこれで重要な考え方ですが、この審査期間中に限ってはどちらかというと計画を達成することに重きを置く。そんな考え方の転換が求められます。

いずれにせよ、この期間は、計画の立案と遂行能力が見られています。

ところで、立案と遂行とわけたのは、それぞれは別の能力だからです。立案能力が高いというのは、自社の実力を理解し、外部の環境の変化を予測し、達成できる計画を立てるシミュレーション能力に近いものがあります。本当に実力のある会社であればコロナのような事態ですら、経営上の予測シミュレーションに入っているはずでしょう。また、経営力が上がるということは、より遠くまでさまざまなシミュレーションをして、あらゆる事態に対して打ち手が取れる状況にあるということだと言えます。

そして、計画を立案しても、遂行できなければ意味がありません。周囲を見渡し具体的な人物像を思い描いてみてください。事業戦略や事業の方程式を考えるのに長けているのに、実行に移すことができない人というのがいませんか。机上の空論なんて言葉もあります。立案能力と遂行能力はまた別のものなのです。

審査期間中は、どんなことをしてでも計画を達成する必要がありますから、これは意志の強さも関係するでしょう。一方で達成にむけて無理をするということは、何らかの犠牲を強いられる時もあり、これが上場前に多くの社員が疲弊してしまうことの要因なんだろうと思います。

上場の「計画性」審査を乗り越えるために勧めること

 
この計画性の審査を乗り越えるために、ふたつのことをお勧めします。ひとつは、上場直前の2年間の審査期間だけは、計画を変えてしまいたくなる、ポジティブな理由もネガティブな理由も封印して、粛々と計画どおりに実行すること。もうひとつは上場で疲れてしまっては意味がないので、組織が痛みすぎないように、あまりストレッチしすぎる予算にしないということ。これが実は結果として、上場を最速で実現するポイントではないかと思うのです。
前述したように、とにかく高いハードルを掲げがちな経営者はこの期間は発想の転換が必要です。

そもそもコロナといった想定していない事態が続く時は、上場企業は固めに計画を出していくものです。帝国データバンクによると、業績修正を発表した2021年3月が決算月の上場企業のうち、75%が上方修正で、下方修正は約25%だったそう。
このデータからも基本的には固めに出して約束を守っていく、この力学をしっかりと身につけるという期間だということだろうと思います。

上場後だから思う「計画性」の意味

上場時においては計画は死守するものである理由をここまで書きました。一方で、上場してからは計画を変えることが柔軟になる側面もあるということです。仮に期初になかった計画でも将来的に事業が伸びるチャンスにつながるというポジティブな理由なら市場にちゃんと説明すれば良い。もちろん、マイナスの理由で計画どおりいかなかったときは、しっかりと説明責任を果たし、挽回策を示し未来を示す必要があります。

審査期間が計画性ファーストだとしたら、上場後は計画性よりも成長性、あるいは説明責任が求められます。

ただ、優先順位が変わったとしても計画性が重要であることには変わりません。
計画の立案能力と遂行能力をあげていくということは、経営力そのものをあげていくことだと思うからです。

もちろん、この変化の早い現代社会において、計画を立ててそこに囚われること自体が弊害になると考えている経営者もいます。

たとえば、これからの時代は、頂上を決めてそこに向かうルートを逆算していく山登り型の経営よりも、くる波が刻一刻と変わる波にあわせてのりこなしていく波乗り(サーフィン)型の経営の方が今の時代にあっているのではないか?という指摘をする経営コンサルタントもいます。

僕ら面白法人も、新卒研修にインプロ(即興演劇)の研修を取り入れていたりするぐらいですから、その時々の状況に応じていかに打ち手を変えていけるかを重視している会社です。

確かに環境の変化が早いという時代だとしても、ただただ会社をサバイブさせる(生き残る)という意味では、計画を立てず、波乗り型の経営の方が強いというのはわかります。

また、頂上を決めて、そこから逆算して経営をするということが時代的にどうなんだろうという指摘もよくわかります。たとえば、こんなスタイルがあります。事業の延長から組み立てた計画ではなく、とりあえず5年後に営業利益3倍、時価総額も3倍にするというような数字目標だけを決めて、あとはどうにか達成するために考えるこんなスタイルです。これは、まさに頂上をきめる山登り型経営です。きっと3年後に達成したら、もっと高い頂上を目指すのでしょう。ですが、今の時代この方法に大義がないと考える人たちもいる。経済的発展をしていれば人々が幸せになる時代ではなく地球環境やウェルビーイングなど、さまざまな問題が絡んでくるからです。

だからこそ、山登り型に懐疑的になるのでしょう。

ですが、上場企業の場合は、計画をいっさい立てず波乗り型で、ただただ時代をサバイブすればいいということではありません。経済的な成長を遂げていくことで社会に貢献するという役割も担っています。また、株式会社の成長と関連の深い力学に株価というものがあります。

株価は未来に対する価値です。今の実力に対する価値なら、波乗り型でもよいのかもしれませんが、未来の価値、それはすなわち未来の計画にたいして株主は期待して投資し、それが株価に反映されています。上場というのはこの力学に則って勝負する、同じルールの土俵に上がるということです。そこは株価を通して比較評価をし、未来に対価を得るというメカニズムがはたらいています。だからこそ計画の立案と遂行能力というのが問われるということなのだろうと思います。

でも、そのように考えると、株価そのものの計算ロジックが変わるような、新しい市場ができないものだろうかとも一方で思ったりもします。

なお、今年の後半で株価についてはもう少し掘り下げてみたいと思っています。

今回は以上です。

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