2023.06.15
#面白法人カヤック社長日記 No.120上場準備チームの核となる「管理部門」の重要性と求められる資質【 面白法人が考える上場の話#05 】
年初の社長日記「2023年の社長日記の決意。 ひとつのテーマで12ヶ月続けます。」で宣言したとおり、2023年の社長日記は、1年を通して「上場」というひとつのテーマを考えていきます。
上半期は「上場準備とその過程」のことを、下半期は「上場をしてから」のことを書くことにしました。ここまで書いてきたテーマは「上場理由をいかにして決めるか」(2月)「社外取締役の選び方」(3月)「資本政策について」(4月)上場審査において「計画性」が問われる理由(5月)。
今回のテーマは「上場は管理部門にかかっている」です。
上場において管理部門を揃えることは、経営者の力量
上場できたのは、社員全員の頑張りによるものだと思っています。ただその中でも上場準備チーム、つまり管理部門のメンバーの動きが実は肝なのではないかと思います。
というのも、上場を目指している会社なのに、全然管理部門がしっかりしていない、そこの層が薄いなぁと感じる会社があります。そういう会社は上場が難しい。これは、上場を目指している会社にカヤックとしても個人としても投資してきた経験則からです。
ある程度しっかりした管理部門をつくるためのメンバーが社内にいない。あるいは、集まってこない、在籍しつづけないということは、経営者がそこの価値を認めてないということだったり、あるいは管理部門のメンバーが、この会社が上場できると信じられていなかったり、ということなのではないかと思います。
創業時には、組織の規模も小さく、ステークホルダーも限られています。創業メンバーがCEO兼COO兼CFOとして動いていても、それなりに仕事はまわります。ですが、組織が成長し、上場準備の段階に入ると、なかなかそうは行きません。役割分担を設けて管理部門を編成することになります。これは上場を実現するための重要な要素のひとつですし、成長するベンチャー企業が避けては通れないことでもあります。
成長段階だから、まだ十分な管理部門のメンバーがいないというのは、そのうち揃えて行けば良いので問題ないのですが、そうではなくすでに事業が成長しており、利益がでているのに管理部門が弱いというケースを指摘しています。
どういうことかというと、創業者の中には、漫画「キングダム」でいう野生の勘を持つ将軍型で事業を立ち上げてきている人も多い。そういう人にとっては、めんどくさいルールや、仕組みをつくることが無駄だと思えてしまう。つまり管理部門のメンバーの仕事を本質的に評価してないということになる。そんな潜在意識がある場合、結果として居心地が悪く、在籍し続けない、ということが起きうるのではないかと思います。
上場は、一人の天才的な経営者だけではどうにもなりません。社内に上場準備ができるチームがいるかどうか。すなわち管理部門がしっかりしているかどうか。これは、上場において必要なカードをしっかりと経営者が引き寄せることができる力があるかが問われています。
管理部門が上場においていかにして活躍できるか?(カヤックの場合)
僕が面白法人カヤックという会社の上場を通して、管理部門の活躍を感じたことがあります。
上場前に準備すべき数々のルールなどを聞いていた時、上場をするとひょっとすると合理性を重視するあまり、画一性に走りすぎて、面白法人らしくなくなってしまうのではないかという懸念もありました。
たとえばカヤックでは創業時から「サイコロ給」を導入しています。文字通り、サイコロを振って給与の一部を決めるという制度です。上場申請にあたってこのルールを廃止してくださいということになれば、面白法人という会社の理念のために上場するのに理念をあきらめることになったと思います。
カヤックの管理部門のメンバーは、自社の大切にしているものを理解し、粘りづよく証券取引所や証券会社とやりとりを続けてくれました。なぜ、このようなルールがカヤックにあるのかをしっかりと説明する。そのうえで、上場企業として守らなければならないルールがあれば、しっかり合わせていくということを行いました。
後日談ですが、カヤックが上場したあとに僕たちの主幹事証券会社から「自分たちが無理だと思っていたことも、証券取引所に掛け合ってみると、そうではなかったことがたくさんあった。新しいチャレンジになった」というコメントをいただきました。
資本主義のそもそもの仕組みや原則さえ理解していれば、思った以上に自由なのです。
これからの管理部門に求められる資質
とある上場企業のCFOと話していたら、その人は証券取引所から、「東証の上場企業には多様化が必要だと思うので、もっと個性を出してください」と言われたそうです。
「上場はこうあるべきです」ということをあまり決めつけない方がよいということもあるのかもしれません。サイコロ給の事例のように、証券取引所は思った以上に柔軟な対応をしてくれます。
上場イコール画一化というのは、むしろ経営者の思いこみで、上場という仕組みを利用して、会社の個性を伸ばしたり、多様性を実現できるというのが本当のところなのかもしれません。
そのように考えると、管理部門には、上場企業として、作法に則って、言われた通りにルールを策定し書類を揃えるということだけではなく、本当にその会社が大切にしている価値観や理念を深く理解し、時には前例のない仕組みがその会社にあるような場合には、証券会社や東証にかけあって、通すだけの力をもつメンバーがいることが求められるのでしょう。管理部門と言えば、既存の慣習に乗っ取りルールを守ることがまず優先されるスキルかもしれませんが、本質的な目的に向き合いルールをつくるというようなスキルがこれからの管理部門には求められると思います。これから上場を目指す起業家はそのように考えていると良いのではないかと思います。また、すでに上場を目指している会社の管理部門メンバーとして頑張っている方々には、自分たちの手で上場市場のルールをよりよく改善していくんだ、そういう気概をもって証券会社や証券取引所とやりとりするとよいのではないかと思います。
そういったみんなの努力によって、上場市場そのものもよりよく改善されていくんだろうと思います。
僕がこの社長日記でつたえたい「管理部門にかかっている」の真の意味は、そんな意図も込められています。
これで、2023年の前半パートである「上場を迎えるその日まで」は終わりです。後半パートが始まる来月からは、「上場をしてから」のことを書いていきたいと思います。
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このブログが書籍になりました! 特別対談「うんこの未来」のおまけつき。