2016.05.20
#面白法人カヤック社長日記 No.10「つくる人を増やす」と、どんないいことがあるのか?
「つくる人を増やす」というカヤックの経営理念は、カヤックの存在理由そのものです。だから、経営理念を大切にしたいと思っています。
一方で、カヤック社員全員が日常的に経営理念を意識しているかと言われると、実はそんなことはありません。僕も含め、普段は意外と忘れてしまっていると思います。
でも、それだとまずいので、みんなで経営理念に立ち返って考える機会を年に2回設けています。
それが、「ぜんいん社長合宿」です。
日常の業務に追われてしまうと、些細なことに気をとられて、大局的に物事を見ることができなくなります。
カヤックの存在理由そのものである経営理念に対して、しっかりと対峙するタイミングを半年に1度くらい設けておくぐらいが、ちょうどよいのではないかと考えています。そして、必要に応じて、そのタイミングで経営理念を変えたっていいのです。
つい先日、そんな「ぜんいん社長合宿」に行ってまいりました。
ちなみに、僕が全社員の前でしっかりと語る機会というのは、年に2回のこの「ぜんいん社長合宿」しかありません。ですから、せめてこの機会くらいは理念の話をしようと毎回意気込んで臨みます。
ですが、今年はふと思ったのです。何も自分が理念を語る必要はないのではないかなと。そこで、何人かの社員に、自分なりの経営理念との向き合い方を全社員の前で話してもらうよう依頼しました。
そうしたらこれが意外と面白かった。僕も楽しめましたし、社員のみんなからも経営理念がより身近になったように感じたという感想をもらいました。
もともと、カヤックの経営理念はシンプルですので、各自がどのように解釈してもよいような幅があります。今後も合宿ではみんなに理念を語ってもらおうということになりました。
そして、せっかくなので、それを社外に公開しても面白いなとも思いました。リレー形式で社員一人ひとりの経営理念の解釈、あるいは経営理念を日々の業務に活かしたエピソードなどを語ってもらいます。そうすることで、社員一人ひとりが経営理念を更に意識するようになり、強い組織になると思うのです。ただ、社外の方が見て面白いかどうかは不明なので、人気がなければ途中で休止します……
ということで、第0回は僕が簡単に書いてみたいと思います。
たとえば「つくる人を増やす」を意識すると、どんな風に仕事が進むのか?
カヤックでは、絵画の測り売りサービス「ART-Meter」や、建築家と出会う場所「HOUSECO」、世界のFlash図鑑「wonderfl -build Flash online-」、JavaScript、HTML5、CSS共有コミュニティ「jsdo.it -share JavaScript, HTML5 and CSS-」など、いわゆるクリエイターという人たちを支援するプラットフォームを数多くつくってきました。
これらはまさに、「つくる人を増やす」という経営理念を体現したサービスと言えます。ですが、必ずしもそんなサービスばかりをつくることを課しているわけではありません。
むしろ、どんなサービスにおいても、「つくる人を増やす」ということを少しだけでいいので、意識することが重要だと考えています。たとえば、「ユーザーに意見を聞いて、ユーザーにもサービスをつくる側になってもらおう」とか。特にインターネットの場合、ユーザーを巻き込んでいけばいくほど、サービスが思わぬ方向に進化していくのではないかと思います。
僕らがいくら考えても思いつかなかったようなアイデアが、ユーザーからもたらされます。それに誰だって、巻き込まれればそのサービスに愛情をもって関わることができる。そこで起きていることを自分事化できれば、きっと楽しくなる。
これは一緒に働く仲間である社員と会社の関係についても一緒です。自分がこの会社をつくっていると感じることができれば、よりいっそう働いていて面白くなる。そのために、会社の情報をできるだけオープンにしたり、社員のアイデアをどんどん取り入れたり、そういう工夫をしていきます。
それは、株主に対しても同様です、できるだけ株主と一緒にカヤックをつくっていきたい。2016年の株主総会は、建長寺で株主の皆さまと一緒にブレインストーミングをさせていただきました。今後もできることを、模索していきたいと考えています。
このように「つくる人を増やせているか?」という言葉を、日々の運営で意識するかしないかで、ちょっとした差となって出てくると僕は考えています。あれ……そう考えると年に2回だけじゃなくほんとは毎日意識した方がいいのかもしれませんね……
「つくる人を増やす」とどんないいことがあるのか、各社員が自分なりのエピソードで語れればよい。「つくる人を増やすこと」がなぜ「人に優しい社会」につながるのですか?と僕が聞かれた時に、話すエピソードを2つほど紹介します。
エピソードその1:「家を建てる人」と「家をつくる人」の違い。
「HOUSECO」という、建築家と建築主をマッチングするサービスを長い間運営してきました。(現在はSuMiKaに合併されました。)
そこで、うまくいく建築主とうまくいかない建築主の違いがあることに気がつきました。”家を買う”という考え方でいる人はうまくいかず、”家をつくる”という考え方をもっている人はうまくいくのです。
日本では普通、家を建てることは一生に一度あるかないかの経験です。そんな大事な機会なので、もちろん失敗したくないと考える人が大半でしょう
けれど、「家は3回建てないと自分の理想の家にはならない」と言われているように、建ててみるまでわからないことがたくさんあります。実際に住み始めれば、不便なところや様々な欠陥が出てきます。そんなときに「家を買う」という感覚だと、高い買い物だけに、欠陥と聞いただけで気持ちが暗くなってしまいます。時には建築家や工務店を責めることにもつながります。
ところが、家をつくるという感覚で関わると、欠陥すらもかわいく思えてくる。自分が生み出したものなら、愛情が出てくるのです。楽しく円満になれるチャンスが残されています。
このように、つくる人が増えると、きっと社会が優しくなります。
エピソードその2:つくることが、人間を秩序立てる。
ある本に書かれていました。戦時下、多くの日本兵が捕虜となり、そこでは秩序を保つために暴力が必要とされた。そんな環境において、優秀な家具職人や建具職人たちのグループだけは、暴力を必要とすることなく、「秩序」を保っていたと。
「なんら虚飾のない、伝統的文化に基づく一つの秩序すなわち文化があった。特に職人は立派であり、彼らはその技術においてアメリカ人よりはるかにすぐれ、従って暴力的秩序などは皆無であり、そしてそういう場所には、彼らは絶対に入ってこようとはしなかった。隙がなかったのである。いかなる暴力団もここには勢力をのばすことは不可能であった」
『日本はなぜ敗れるのか―敗因21ヵ条 (角川oneテーマ21)』山本七平著より
なぜ、職人の世界では暴力的な秩序がないのか?最初に断っておきますが、僕はこの問いに応えられるほど十分な知識や洞察力を持ちあわせているわけでありません。ただ自分なりに考えてみました。
捕虜という、強制的に集団生活を強いられ、暴力的な秩序が生まれやすい極限状態における、職人たちとそれ以外の人たちとの違いを考えてみました。
それは、つくっているということ。
「つくる人」というのは、以下の条件を満たした人だと思います。
- ある状況に置かれたとき、「その状況が自分に何をしてくれるのか」ではなく、「自分がこの現状において何をするのか」と考える人間である。
- 自分の利益を優先することでは、いいものをつくれないことは経験的にわかっている。
- 障害や制限があるほうが、つくりたいものが出てくる。
- つくるという作業は孤独だから、そもそも孤独に慣れている。
暴力ではなく、つくることによって秩序を生み出すことができたから、暴力的な秩序と無縁であったのではないでしょうか?つくる人を増やし、つくる行為を促せば、みんなが優しい社会となっていくのではないでしょうか?
……と、こんなふうに、エピソードを各自が思い思いに語れればよいのです。
ということで、今後カヤックの社員が理念について語るコーナーをお楽しみに。
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