2018.06.26
#面白法人カヤック社長日記 No.42話題のティール組織について、わかりやすくまとめてみた(やや偏見あり)
経営者の間で話題になっている「ティール組織」という本があります。ビジネス書として異例なほどの売れゆきですが、話題になっているからと手に取ったものの、分厚くて最後まで読めなかったという人も多いようです。
そこで、今回の社長日記では、この本を端的にまとめることにチャレンジしてみようと思います。その上で、この本に書かれていないティール組織の条件について、自分なりの経験則から、まとめてみます。
ティール組織とは何なのか?
著者は、組織(会社)も時代によって進化すると主張しています。その進化形態を5段階で表現しています(原文では色とメタファーとして記載されています)。
(1)狼型組織
(2)軍隊型組織
(3)機能型組織
(4)家族型組織
(5)ティール組織
それぞれの組織と進化について解説してみます。
(1)狼型組織
その名のとおり、力ですべてを支配する組織です。とにかく、組織の中で一番強い人が偉い。シンプルなルールです。
(2) 軍隊型組織
狼型組織よりも進化した組織が、この軍隊型組織になります。軍隊組織になると、もう少しルールができます。それは、とにかく上司が偉いというヒエラルキーです。上司の命令は絶対であり、自分の報酬も身の振り方も、直属の上司がすべて決めます。狼型組織よりも規律を持って動くことができるので、より強い組織となります。
(3) 機能型組織
軍隊組織よりさらに細分化した役割をつくり、各種KPIを設定して、より効率的かつ生産的に組織を見ていきます。軍隊型ですと、時に理不尽であっても、上司の命令は絶対とされますが、こちらの組織ではもう少し合理的な判断が担保されるので、軍隊型よりも強い組織ということになります。
(4)家族型組織
(3)の機能型組織は、その名から想像する通り、人をまるで機械のパーツのような機能と見立てています。しかし人は機械ではありません。感情がある。感情ひとつで生産性は変わってしまう。つまり、人のモチベーションマネージメントも含めて考えるのが家族型組織です。現在、世間でいわゆるいい会社といわれているものの多くは、この四段階目ということになるようです。
(5) ティール組織
この著書では、家族型組織のさらに進化した形がティール組織だとしています。(4)の家族型組織は、確かに人の感情に寄り添ってはいるものの、ヒエラルキーというものは残っています。それに比べてティール組織には、そもそもヒエラルキーの概念がほとんどない。それぞれの社員が主体的に勝手に動いている。だから常にモチベーションは高く保たれ、組織の生産性も高い。これをティール組織だと名付けています。
つまり、この本をものすごく端的に紹介するなら、「組織にも進化形態がある」「進化にいち早く対応した組織が次の時代の担い手になる」ということでしょうか。これはなかなか見過ごせない主張だなと思いますし、その仮説に経営者の注目が集まっているのではないかと思います。
ティール組織に共通する要素は?
この本の中では、ティール組織と呼ばれる組織を複数調べて、共通事項を抽出することを試みています。この本を読んでいて、面白いと思うのは、各社とも、どこかをお手本にしたわけではなく、事業内容も組織のルールもバラバラなことです。個人にとって良い組織とはどういうものか? それを独自に突き詰めた結果、共通する要素が生まれているのです。この本では、それを「自主経営」「全体性」「存在目的」と解説しています。
ただ、です。この3つの共通する要素については、なかなか読み解くのがむずかしく、それが何なのかというと、なかなか読後感として簡単に説明できないのではないかと思います。
そこで、ティール組織の条件というものを独断と偏見でまとめ直してみました。面白法人が果たしてティール組織かというと、そうでない部分も多々あるのですが、読んでいて共通する部分も結構ありましたので、その実体験からくる部分をまとめてみようと思った次第です。さらにこの本にも書かれていないことも勝手にまとめてみたいと思います。
1. ティール組織のCEOの条件
ティール組織とヒエラルキーは相容れません。各自が主体性を持って好きなように動くという組織です。ティール組織のCEOは独裁者になってはいけない。現場の細かな意思決定には参加しない。むしろ何もしないといった方がふさわしい。けれどもそういった組織をつくるには、CEOこそ最も重要だとこの本には書かれています。
でも、それ以上のことがあまり書かれていないので、どういうことなのかがわかりません。ですので、僕なりにCEOの役割を解説してみたいと思います。
いくら社員が主体的に動くといっても、ほんとに各自が好き勝手にやるなら、それは組織ではなく、フリーランスの集まりにすぎません。ひとつの組織に属する仲間として、何らかの共通する目的意識がなければなりません。つまり、皆が共感するビジョンを描くこと。この能力がCEOとして必要なのはいうまでもありません。ティール組織に限らず、必須の条件だといえます。
その前提の上で、ティール組織のCEOに必要なものが2つあります。ひとつは、そもそもティール組織にしたいと思っているかどうかです。つまり、社員一人ひとりが自由に主体的に働く組織をそもそもつくりたいかどうかです。
これは、その方が合理的だからとかではなく、そういうタイプのエゴを経営者が持っているかどうかだと思います。これは実は、微妙に生い立ちというものもひとつの要因になると思います。かつて自分の所属した家族、学校や組織において、そういう育てられ方をしたかどうかということに、ひとつの相関関係があると思うのです。もちろん過去は過去にすぎず、未来は変えられますが、過去の影響はあると思います。
そして2つ目は、事業以上に組織に興味があるかどうかだと思います。この本の中でも、ティール組織に共通する考え方として、「会社を生き物のように見ている」と書かれています。僕らも設立当初から、会社も一人の人なら面白い人にしたいと面白法人と名付けたように、会社を人のように見立ててルールを考えてきました。これはモノやコトよりも、ヒトに興味があるということであり、言い換えると事業そのものよりもどちらかというと組織により強く興味がある。つまり、どうやったら人が主体性を持って働けるかという仕組みづくりに興味がある(むしろ偏執的なぐらいにこだわっている)ということが重要になると思います。でなければ、何も好き好んでティール組織をつくろうなんて思いません。
2. ヒエラルキーをなくすための仕組みがある
ティール組織を一言でいうなら、ヒエラルキーがない(実際には、ないのではなく、できるだけつくらないようにするということだと思います)組織ということになります。つまりそのための工夫が必ず各社にあります。
この本でも、各社の工夫が随所に書かれています。簡単なことでは肩書を廃止するでもよいし、ホラクラシー経営を10年以上続けているダイヤモンドメディアでは、社長を投票で決めるという仕組みがある。ちなみに、カヤックでは、ブレスト(ブレーンストーミング)という仕組みがそれを可能にしています。ブレストはあらゆる肩書を無力にしてしまう。人のアイデアに乗っかって面白さを追求しているうちに、誰が出したアイデアかも最終的にはわからなくなり、内と外の領域が曖昧になり、人の手柄は自分の手柄、人のミスは自分の責任になる。おのずとそういう企業文化になります。
3. ヒエラルキーがない中での独自の意思決定プロセスがある
ヒエラルキーがないと、どうやって意思決定がされるのか? そこに各社の工夫があります。単なる多数決ではありません。多数決は得てしてまずい方向に決定がいきがちということは直観的にわかっている。ティール組織の代表といわれるビットゾルクという会社は、「意思決定は自分でする。ただし、全員のアドバイスを聞いて決める」とこの本に書かれている。なるほど。ティール組織の意思決定は、各自が主体的に決めるといいつつ、ある種の合議制の要素が必ずあるのではないかと思います。
カヤックも意思決定は合議制で「なんとなく」決まります。たとえば今年4月、執行役員が二人新任されたのですが、取締役会での承認プロセスはあるものの、その前段階で、そもそもどういうフローで彼らが役員になったのかはまるで明文化されていない。あえて説明するなら、なんとなく空気で決まる。実は、空気で決まるというのも意思決定の重要な方法のひとつだと思うのです。誰かひとりに意思決定の権限が任されるのではなく、全員の意思が会社の意思になるからです。中途で入った社員が、たまにこんな発言をします。「意思決定において誰がキーマンで、誰に許可を得ればよいのかわからない・・・」ティール組織が何なのかを体感してない人には、一番わかりづらい部分だろうと思います。
4. ヒエラルキーをなくすための評価制度がある
この本にまったく書かれていなかったことのひとつに、評価制度があります。ティール組織をつくっていく上で、必ず評価制度は工夫しているはずです。評価こそが、その組織の文化をつくるからです。
厳密にいうと、評価には、報酬を決める評価制度と、役職を決める評価制度があると思います。両方を書くと長くなってしまうので、ここでは報酬制度についてだけ。ティール組織にするための報酬制度は、おそらく3つしか方法はないと思います。ひとつは、社員の報酬が一律だったり、完全な年功序列であるなど、そもそも報酬決定で悩まなくていいような仕組みです。これなら評価する側とされる側というヒエラルキーもなくなるし、余計な思惑がなくなります。公的セクターなどは、比較的これを可能にしやすいかもしれません。2つ目は、自分の生産性が誰からもわかるように、すべての活動を徹底的にガラス張りに、具体的に数値化するということです。このアプローチで取り組んでいるのが前述のダイアモンドメディアです。確かに、徹底的に透明にすると、組織はフラットにならざるを得ないだろうと思います。そして3つ目が360度評価です。部下・同僚・上司から全方位的に見られて報酬評価が決まる。カヤックでは、この3つ目のアプローチをとっています。いずれも、報酬という評価の最たるものが、上司の裁量だけで決まるのではないという設計で、ヒエラルキーとは逆の指向の組織をつくることにつながっています。
5. 役割分担が曖昧で、兼任の人が多い
ヒエラルキーがないということと関連しますが、ティール組織では、この仕事は誰の仕事であると、はっきりとした線引きをしない傾向があるのではないかと思います。これは、会社を生き物のようにとらえるという前述の思想の一環でもありますが、たとえば僕自身もいまだにバリバリの現場がやるような作業をしていたりもするし、カヤックのエンジニアでいえば、自分の領域を限定せず、さまざまな分野に興味を持って取り組むフルスタックのエンジニアが多い。手を挙げれば組織を横断していろんなチームに所属できる。こんな仕組みがあるのではないかと思います。
6. ティール組織には、そもそも合う人と合わない人がいる。それを理解した上で、合う人だけになる仕組がある
そもそもティール組織に合う人、合わない人というのは、明確にあると思います。たとえば、前述のビットゾルクの意思決定のルール「意思決定は自分でする。ただし、全員のアドバイスを聞いて決める」というのは、どちらかというと性善説の考え方で成り立っています。素直な人であれば、意思決定の際に他の人のアドバイスを聞いて、明らかに自分が思慮が浅かったりした場合は、ちゃんと軌道修正するだろうという前提があるからです。その考え方に合う人を入れないとなりませんし、もともと狼型や軍隊型の組織で育った人間がティール組織にきて、自由に意思決定してくれといわれても、どうしたらいいか戸惑ってしまうでしょう。
なので、ティール的な組織観に合う人を見極める必要がある。つまり入り口(採用)がとても重要になります。狼型組織や軍隊型組織においても、もちろん採用は重要ですが、強ければ上に行けるというヒエラルキーが担保されていることによって、「誰でもこい、強ければのし上がれるよ」という門戸の広さがある。一方でティール組織は、自律性を重視する分、そもそも合わない人材が入ってくると、組織として機能しないことにさえなりかねない。
人材マネジメントの観点でいえば、もちろん入り口のところだけでなく、社内の教育や研修で合うようになる仕組み、そして、どうしても合わない人がいた時、双方の話し合いの上で出口をつくる仕組みがあるはずです。
しかし、ティール組織では、教育や研修にさえ重きを置いていないのではないかとさえ思うのです。なぜなら、教育や研修といったものは、どうしても教える人・教えられる人というヒエラルキーをつくり、かつ、本来主体的に動くべき人間を、ある種の型と枠にはめてしまうという矛盾がある。組織というものは放っておいても、メンバーが同じ時間を共有すればおのずと同調圧力が働く性質を持ちますが、ティール組織を目指したいのであれば、画一的になってしまう恐れのある研修は避けたいのではないかと思います。ここは矛盾と相対する難しいところですが、経営とは矛盾との戦いそのものでもあります。ちなみに、そういえばカヤックも、社内であまり教育や研修という言葉を使わないのだなと改めて気づきました。
以上6個が、僕がまとめた、ティール組織の共通要素です。実は、もうひとつ追加するか迷ったのは、「理念を浸透させる仕組みがある」ということです。各自が主体的に勝手に自由に動く分、組織の目指すべきビジョンや理念を浸透させる仕組みこそ重要な要素ではないかと思ったからです。実際、この本で取り上げられている組織も間違いなくそういったことを大事にしている会社ばかりだと思います。ただ、それはティール組織に限ったことではないので、今回ははずしました。また、カヤックでは330人(単体)の社員中、94%がクリエイターと職能を絞った組織にしていることが、直観的に、明文化したルールがなくても回るという自由度を担保することにつながっている。そんな気もしていますが、ここも言語化できなかったのではずしています。
最後に。
まとめてみて思ったのは、必ずしもティール組織が、今までの組織に比べて進化した組織でもないような気がしています。たとえば、ティール組織の方が果たして生産性が高いかといえば、そうとも限らない。会社にとっては、ビジネスモデルが秀逸かどうかが大前提だからです。ただ、ティール組織は多様化したひとつの形態であり、結局は、この形態が好きかどうか、好んで選択したいかどうかというもののように思えるのです。
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