2019.04.23
#面白法人カヤック社長日記 No.543人代表取締役がいる組織の意思決定のノウハウを公開。
面白法人カヤックには、代表取締役が3人います。
2019年現在、創業者の3人がその役割を務めています。代表取締役CTOの貝畑政徳、代表取締役CBOの久場智喜、そして代表取締役CEOである柳澤です。創業から20年間、いまのところ、この体制は変わっていません。
これは上場企業としては珍しいことのようです。代表取締役会長と代表取締役社長などがいる会社は複数ありますが、3人の代表取締役が並列で存在し、ほぼ等分で株式を保有している会社は、金融機関からはよく「見たことがない」といわれます。
そこで今回は、なぜカヤックが三代表制を選択しているのかということについて書いてみたいと思います。
そもそも代表取締役は、組織が大切にしている価値観を最も体現している人間であるべきだと思っています。そのように考えたときに、3人が代表であるということそのものにある価値観が込められています。
まず第一に、仲間にこだわる組織だということ。
3人の中で、それぞれ得意なことと不得意なことがあり、役割分担があります。その中で、チームとして連携しながら、経営の意思決定をしていくことになります。3人で補い合って、まるでひとりの人間のように融合して意思決定をするということです。巨大ロボットのヒーローもので、3人で合体してひとつの巨大ロボを作るような場面が出てきますが、そんなイメージです。人は自分の都合で動く生き物ですから、3人で意識を合わせるというのは、なかなか大変なことです。でも、そこにチャレンジしようということ。そう思う根底には、自分都合だけの人間は美しくないという3人に共通した美学があるかもしれません。
そして、第二に、主体性を大切にし、フラットな組織にしたいということ。
これは第一の理由に比べると、少し弱いかもしれません。究極にフラットな組織を目指すなら、選挙制にした方が良いでしょうし、全員が代表ということだって、本来は考えられます。ただ、少なくとも代表取締役ひとりという組織よりは、フラットな組織を目指す。その意思は込められています。
ティール組織というのが話題になりましたが(以前の社長日記でも、ティール組織について書きました)、主体性を大事にしたティール型組織の共通事項として、組織を生き物のように捉えるという考え方があります。
代表が3人いるということは、何かあったら3人で意思決定し、3人で責任を取るということです。3分の1ずつ責任を取るのではなく、全員が100%責任を取る。明確な線引きがあるわけではありませんから、役割も責任もある種相互に絡み合って、その境界線は不明確なものになります。これを突き詰めていくと、意思というものが有機的な生物のようなものに変質する瞬間があるように思います。
そして最後に、意思決定のプロセスにこだわる組織だということ。
三代表制のデメリットは、合議制で意思決定が行われるため、どうしても時間がかかるということです。経営とは意思決定そのものですので、合理性を追求するなら、ひとりの人間に意思決定を任せた方が早いのです。
3人で決めるということは、時に時間もかかるし、意見が割れるときもある。でも、割れるからこそ意味があると思うのです。カヤックでは必ず、意見が割れた時には、いま出ている案とは別の、第三の案を出すことにしています。多数決で決めるのでも、誰かひとりに最終決定権があるのでもありません。第三の案に全員が納得して、初めて意思決定となります。
これは、必ずしも合理性だけを重視するのではないということを意味しており、意思決定のプロセスにこだわっているとも言い換えられると思います。
以上のようなことが大事な価値観として込められています。
そしてカヤックでは、代表取締役だけではなく、各事業部や関連会社も、なるべく三代表制にすることを促進しています。カヤックは今後、関係会社を増やし、鎌倉という地において、地域経済の生態系をつくっていこうとしています。それぞれのグループ会社は、事業領域も組織も異なりますが、ブレストを通じて、社員一人ひとりが面白がって働くという企業文化、そして、この三代表制ということを、グループ会社を増やしていく上での大きな方針のひとつとしたいと考えています。
ただ、僕ら3人のように、3人で創業して、一緒に会社をつくる試行錯誤を重ねてきたのと違って、社員同士で3人でチームを組んで、事業部長を三代表制でやれと言われても、難しい部分もあるだろうと思います。
そこには、さまざまな工夫があります。今回の社長日記では、以前にこのテーマについて、社内で議論した内容をQ&A形式でご紹介したいと思います。
Q. 3人で意思決定をするというイメージがわかないのですが・・・?
A. 毎回、3人で多数決をして決めるということではありません。人数が集まるとリーダー的な人が自然と生まれますし、3人の中でも、ジャンルによっても、誰がリーダー的存在になるのかは都度変わります。ただ、そのリーダーが意思決定をする際に、残りの二人とよく話し合って決めるということです。そして、その3人ならではの意思決定のスタイルがあります。僕らカヤック創業者3人の関係でいえば、柳澤がリーダーとなって決めるケースが多いですが、貝畑はエンジニア出身でクリエイティブ領域が強い人間であり、常に新しいことに焦点が合っているので、あまり後ろを振り返らない、でも、僕らの主要事業である面白コンテンツという領域における嗅覚を持っているので、彼の判断を必ず聞きます。久場は、彼なりの信念と美学、そして目に見えない潮流のようなものをつかむ力があり、反対するときは強く反対します。そういうときは久場がそこまでいうのだからやめておこうとなる。3人なりの意思決定のプロセスがあるのです。それはその組み合わせによってきっと変わる。ただ重要なことは、意思決定において必ず3人が関与する。逆にいうと、そこになんのバリューも出せない人は三代表制の一人は担えないということだと思います。
Q「三代表制だと、揉めたりしないのですか?何か工夫しているようなことはあるのですか?」
A「意見が割れた時は、必ず第三の案を出す」というのは共通のルールとしてあります。ただ合理的な意思決定の場においては、そのルールで運用していますが、人間は必ずしも合理的ではない。感情で動く部分もある。だから週に一回だけ、お互いの感情を素直に吐露する、雑談タイムというのを設けています。それで相手の立場が多少わかるというのが、唯一工夫していることです。」
Q. とはいえ、カヤックの創業者3人は学生時代からの友人で、元から仲が良かったからできるのではないでしょうか?
A. 実は、学生時代にそれほど仲良かったわけではありません。ほとんど一緒に過ごしていない。ただ、何か共通する思想があった。それが仲間と一緒に何かを成し遂げるのが楽しいという考え方、つまり「何をするかよりも誰とするか」が大事ということ。おそらくカヤックの社員はその点に共感して入ってきているはずなので、過ごす時間がそれほど長くなくても、チームは組めるのではないかとは思っています。また、カヤックの文化であるブレストをちゃんとやっていれば、仲間と一緒に何かをつくる体質になるので、できるはずです。
Q「ズバリ、三代表制で経営することのメリットはなんでしょうか? 仲良くやるのもいいですが、ワンマンの方が、意思決定のスピードは速いですよね?
A「僕らは3人で仲良くやりたいと思っているというより、3人代表がいる組織をつくる、その価値観をひとつの物語として社会に発信していく。未来のためにそういう物語をつくっているんだと思っています。どちらがメリット、デメリットが大きいからやる、やらないということではなく、そういう会社を物語としてつくりたいのです。そして、どんな3人でやるかということ、その中で、全員が納得するプロセスを大事にしたいのです。もしも揉めることがあって3人が別れてもいいけども、別れそのものも面白くしなきゃいけないし、それが自分都合の理由では物語が面白くない。そう思ってやっている。そのような意識で三代表を担う一人を役割として演じればできるはずだと思っています。
Q. 考え方はなんとなくわかりました。でも、そうはいってもカヤック代表の3人のような関係性はなかなか見かけないのですが・・・。
A. 確かに、たまたまのところはあります。半分ぐらいはたまたまです。ただ、これは工夫でなんとかなるなという部分もあります。また、たまたまであっても、その要因は常に言語化するようにしていて、そのひとつに、僕らは人材の見立てが一緒だったということがあります。つまり、どういう人間を採用しようか、どういう人間と一緒に働きたいか、そこが一致しているので、うまく行く。これが割れていると、たぶん、派閥ができてしまうし、本来フラットな組織にしたいということが実現しない。
だから3人代表で、誰を抜擢しようとか、そこの人材の見立てが一致しないなら、そこはおそらく三代表としてもうまくいかないので、チームは変えた方が良いです。代表のポジションは比較的柔軟に、常に変わっていってもいいかなとは思っています。
あと、自分の感情を素直に話す会を自主的にやっていますが、時間をかけて関係性が進化してきたこともあります。ですので、その時間をショートカットするために、カヤックで新たに三代表制のチームができたり、そのメンバーが入れ替わる時は、プロのチームコーチングをちゃんとつけて、関係性を深くする時間を最初は取り、それによってショートカットするための工夫をしていきます。
当日記の無断転載は禁じられておりません。大歓迎です。(転載元URLの明記をお願いいたします)