カヤック新社屋を建築家の谷尻誠さんに解説してもらいました | 面白法人カヤック

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2019.01.11

#面白法人カヤック社長日記 No.50
カヤック新社屋を建築家の谷尻誠さんに解説してもらいました

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今回の社長日記は、先日のカヤック新社屋お披露目イベント「小カヤック展」でトークイベントにご登壇くださった建築家の谷尻誠さん、吉田愛さんとのセッションレポートです。

おふたりの建築に対する考え方を聞きつつ、カヤックの新社屋についてのお話を紹介いたします。では、お楽しみください。

一泊25万円のホテルが高稼働率の理由

柳澤
:まずは自己紹介がてら最近のお仕事で「これは」というのをご紹介いただけますでしょうか。

谷尻
:最近では、ストライプインターナショナルさんが運営する「ホテル コエ トーキョー」 のクリエイティブディレクションや設計、インテリアデザインを担当しました。通常、なにをつくるか決まってから依頼を受けるのが設計事務所ですが、このプロジェクトでは、渋谷という場所と「アパレルのショップがやりたい」ということしか決まっていなかったんですね。それ以外は「提案してほしい」と。僕たちは「ホテルをやりましょう」というプレゼンテーションをしました。

ホテルをやりたいというよりは、これからのアパレルショップを考えたときに、昼12時に開店して夜8時に閉店して一日の3分の1しか稼働しないのではなく、いっそホテルをつくって、24時間オープンしているアパレルショップをやろうと。

柳澤
:面白い。渋谷だとインバウンドのお客さんが泊まった時、夜間にも売れそうですものね。実際に服が24時間買えるんですか?

谷尻
:はい。夜は無人で、キャッシュレスのスマートレジで買えます。

吉田
:スタッフの方はいないんだけど、買い物ができる。

谷尻
:1階はカフェ&レストラン、イベントスペースがあります。2階がアパレル・雑貨のショップで、3階がホテル。1階から2階に上がる動線を大階段にして、目の前がポップアップのショップになっています。夜になると洋服が電動で上に収納されて、アーティストが歌ったり、DJが選曲して、大階段がライブハウスのようになる。時間によって、空間がだんだん変化していくという場所です。

渋谷という街は、クラブやレコードショップも多くて、すごく音楽カルチャーが根づいた街だと思うんですね。最近はインターネットで服を買うことも多いんですが、そうすると検索して、洋服の情報にしかたどり着かない。おしゃれしてクラブにいくように、音楽と洋服のカルチャーって、もともと隣り合わせでつながっているものですよね。それがインターネットが発達することによって、洋服の隣りにあったはずのカルチャーが分断されているような気がして。それをもう一度つなぎ合わせる場にしたいと思ったんです。

週末はクラブイベントをやってフロアが賑やかなので、3階のホテルは、あえて静寂をつくり出そうと。ワンフロアに10部屋あるんですが、広さを均等にわけるのではなくて、洋服のサイズのようにS・M・L・XLと4つのサイズにわけました。一番大きな100㎡の部屋は、中央に茶室のような場所があります。1泊25万円するんですけど。(会場騒然)・・ってなりますよね。だから、反対も多かったです。コンサルタントの方も、稼働率が低くなるから、1日8万円くらいにして稼働率を上げた方いいんじゃないかって。でも、それだとインパクトがないので、とにかく「この部屋に泊まりたい」って思えるすごく印象的な部屋をつくろうっていうことで、あえて25万円にして一部屋つくりました。

で、Sが7部屋、あと、MとLとXLが一部屋ずつ。1階のフロアで、みんながすごく盛り上がって、たとえば誰かがみんなにシャンパンを振る舞うようなシーンをつくりたかったんです。シャンパンを振る舞うようなお金持ちは、普通はラグジュアリーなホテルで完結するかもしれないけど、こういう場所で交差することで、そういう人に思いがけずおごってもらう。そんなシーンが若い時にあったら、忘れられない経験になるような気がして。そういう場所づくりができるのは、渋谷ならではなんじゃないかなと。最近はそんなことをやっています。結果的に、いま稼働率はかなり高くなっています。

柳澤
:なるほどねぇ。そのごった煮感が面白いから、25万の部屋であっても泊まる人がいるんでしょうね。でも、ホテル建築にはお金がかかりそうですが、予算はふんだんにあったんですか?

吉田
:それが、あまりなくて。限られた坪単価の予算の中で、価格に見合った体験をどう設計するかという。

柳澤
:やはり・・・でも、谷尻さんたちは、予算があろうがなかろうが、逆手にとりますよね。僕らも今回、かなり予算が限られていたんですけど。

制約を逆手に取った「まち全体をオフィスにする」というコンセプト

谷尻
:制約がある方が自分たちの能力が顕在化するので、つい盛り上がるっていうのはありますよね。でも柳澤さんの頼み方がうまいんですよね。予算は厳しいのに(笑)。

吉田
:でも設計者の気持ちを盛り立てるような「期待してます」みたいな一言は付け加えてくれるんですよね。

谷尻
:500円でチャーシューメンは出せないけど、「予算はこれしかないけど、一緒に新しいチャーシューをつくろう!」って言われたら、なにか燃えるじゃないですか。そんな感じでしたね。「ちょっと新しいチャーシュー開発しちゃう?」みたいな。

吉田
:あとで冷静に考えたら「あれ?」みたいな(笑)。

谷尻
:今回、カヤックのオフィスをつくるにあたって、いかにもオフィス然としたものをつくるより、大きなガレージみたいな建物をつくって、そこにデスクが置かれてパソコンを置いて仕事していれば、なんとなくオフィスと呼ばれる、そんなあり方でいいんじゃないかと思ったんですよね。

やなさわさんからも「鎌倉のまち全体をオフィスにしたい」というコンセプトもありましたし。

で、現地を見に行った時、ちょうどこの場所ですけれど、裏手には古民家が残っていたり、アパートがあったり。鎌倉駅から近いけれど、商業地というより、ここは住宅地らしさを残した場所だとわかって、矛盾した言葉ですが、だったら住宅らしいビルがつくれないだろうかと考えたんです。

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コスト面の制約もあって、壁の全面が引き違い窓の組み合わせになっているんですが、住宅用の既製品の窓サッシなので、かなり予算を抑えることもできました。特別な建物をつくろうとすると、特別なパーツをオーダーしなきゃと思いがちなんですが、ごくあたりまえの既製品を多用することで特別なものが出来上がるっていう、そんなひとつの解を出せたら、面白法人という名前にもふさわしい社屋になるんじゃないかと。窓がたくさん並んでいるので、外から見ると7階とか8階建に見えるんですけど、実際は2階建という、奇妙な感じを意図的につくるようにしました。

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吉田
:あと特徴的なのは、やっぱり床ですね。まちとつながっているというコンセプトなので、外と中の境界線をあえて明確にしないで、道路のアスファルトをそのまま建物の中にも敷き込んで、屋内外のグリーンを並列に扱った空間をつくっています。

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谷尻
:この1階のイベントスペースは、地域に開かれた場所というコンセプトなので、当初は窓もつくらない予定だったんです。でも、さすがに寒いし、イベントもしづらいということで窓がつきました。本当は、取っちゃったらもっと面白いですよね。

吉田
一応、取り外せるようになっています。

谷尻
:住宅のようなビルのような、家のようなオフィスのような、そういう、少し漂った状態のままできあがるということを意識的にやろうと。

柳澤
:唯一、空調だけはこだわりましたね。以前、空調の悪いオフィスで風邪が蔓延したこともあったので。

谷尻
温かい風で温めたり、冷たい風で冷やすのがエアコンの役割ですけど、その風は、空気を乱す機能も持ってしまうんですよね。風を起こさずに空調環境を整えることは、オフィス環境にすごく重要だなということで、なるべく風が起きない空調を提案しました。

吉田
:1階に敷き込んだアスファルトの下に床暖房を入れて。

柳澤
:最後の最後、どこに看板をつけるかというのが、直前まで決まらなかったんですが、これもアイデアをいただいて。まちとつながるオフィスだから、道路の電柱広告を看板にしてしまえばいいんじゃないかと。月額2000円の看板です。

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谷尻
:そういうのを考えるのは、すごいクリエイティブだったよね。面白法人ということで「自分たちはこういうことをやりたいんだ」という方向性も明確でしたし。

吉田
:設計していても、すごく楽しかった。やっぱり「普通じゃ駄目でしょ」ってこっちも思って(笑)。

柳澤
:あと、建て方も結構すごいらしいんですよね。

谷尻
:はい、木造ですが、耐震や防音も考えないといけないので、エンジニアリング的な工夫が随所にあります。

吉田
:木造だと筋交いを使うことが多いんですが、柱と梁の構成でシンプルにつくりました。

谷尻
:となりの棟は天井まで本棚があるんですが、その後ろ側に耐震性能を担保して、それ以外の場所を開放するということを、エンジニアの方と相談しながら進めました。

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柳澤
:鎌倉市は景観保護のため、建物の高さに制約がありますし、面積も限られていたので、大きなビルはつくれない。それを逆手にとって「まち全体をオフィスにする」というコンセプトが生まれました。新社屋だけでなく、古民家をリノベーションしたオフィスなどが分散している。鎌倉には素敵なカフェや施設もたくさんありますから、そうした場所でリモートワークすれば、そこがオフィスになるかもしれない。谷尻さんも、是非こっちに事務所を構えていただいて・・・。

「点と点をつないだ線によって何かが生まれる」

谷尻
:「鎌倉にオフィスがあるといいよね」という話は、前からしているんですよ。でも僕らサポーズだけの拠点じゃなくて、共同の設計事務所をつくったほうがいいんじゃないかなって。自分たちだけで何かやるっていうのは、なにか閉じている気がするんです。

柳澤
:先ほどの話にも通じますね。あえて境界線をつくらないということは、やはり常に意識しているんですか?

吉田
:そうですね。違う領域の人と一緒にやるとか。

谷尻
:僕らは、自分たちが何かをつくりたいというよりは、人の動きや時の動きと場所が結びついて状況が生まれる、状況と発想が結びついて価値が生まれる、建築と世の中が結びついて景色が生まれる、人と人が結びついて化学反応が生まれる。そんな「接続」を意識した組織でありたいと思っているんです。建築家の方は、独自のアイコンをお持ちの方が多いんですね。安藤忠雄さんのコンクリート、隈研吾さんのルーバーのように。僕らには、そういうアイコンはないけれど、「点と点をつないだ線によって何かが生まれる」ことが自分たちのスタンスなんです。

柳澤
:僕らと仕事したので、もう谷尻さんと鎌倉も接続しちゃいましたからね。来年にはお待ちしておりますね(笑)


SUPPOSE DESIGN OFFICE Co.,Ltd.
代表 谷尻 誠氏・吉田 愛氏
SUPPOSE DESIGN OFFICEは谷尻誠、吉田愛率いる建築設計事務所。広島・東京の2ヵ所を拠点とし、住宅、商業空間、会場構成、ランドスケープ、プロダクト、インスタレーションなど、国内外で幅広い分野のプロジェクトを多数手がける。近年の代表作に「hotel koe tokyo」「関東マツダ目黒碑文谷店」など。「ONOMICHI U2」で中国建築大賞2015大賞、International prize for sustainable architecture Gold Medal、「今治のオフィス」で第一回JIA四国建築賞大賞、「BOOK AND BED TOKYO」でJCDアワード大賞を受賞するなど、受賞歴多数。最近では、東京事務所併設の「社食堂」、「絶景不動産」「21世紀工務店」を開業するなど活動の幅も広がっている。作品集に「SUPPOSE DESIGN OFFICE -Building in a Social Context」(FRAME社)がある。

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