「社外取締役という職能の役割と心構え」に対する考察。 | 面白法人カヤック

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2016.10.19

#面白法人カヤック社長日記 No.16
「社外取締役という職能の役割と心構え」に対する考察。

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今回は「社外取締役」という職能について書いてみたいと思います。今現在、カヤックの社外取締役から学ばせていただいていますし、未熟ながら僕自身も社外取締役をいくつか務めさせていただいている経験からです。正直申し上げるなら、まだ次期尚早という気もしますが、あくまで現時点での見解ということでご容赦ください。

なお、原則上場企業(パブリックカンパニー)の社外取締役ということが前提になっています。もちろん非上場企業(プライベートカンパニー)でも、本質的に会社をよりよくしていこうと思ったら、社外の視点は必要だとは思うのですが、プライベートとパブリックでは、そのメカニズムも作法も異なります。特に昨今、上場企業の多くにコーポレートガバナンス・コードの規定内容の実施(実施しない場合はその理由の説明)が求められていますので。

それではまずは、社外取締役が担うべき役割と心構え6か条をまとめてみました。

1.社長にとって耳が痛いことを言う。
プロパーの社員は社長に対して、薄々おかしいなと思っていても、言えないことが時にあります。社長に対して遠慮してしまうことだってあります。でも、それを利害関係のない外部の人間だからこそずけずけ言える。つまり、経営者に対して歯に衣着せずズバッと言う役割が求められます。ちなみに、社長ともなると普段、面と向かって反対されることにそれほど慣れてないので、むっとされることもあるかもしれません。その場では却下されることもあるかもしれません。ですが、意外と後で冷静になったときに、意見を取り入れたりするものです。

2.攻守を意識する。
社外取締役は、何となく経営陣が法令違反をしていないかとか、暴走しないかとか、どちらかという守りの観点から監視をするという風に思われがちです。もちろんそれはそれで重要な役割ですが、時には守りだけではなく、攻めの後押しもしなければなりません。例えば、「もっと投資すべきだ」とか。ソフトバンクがARMを買収検討時に、社外取締役のユニクロ・柳井氏が後押しをしたと言われていますが、そういった感じの役割です。そのためには、その会社の事業に対する勘所を知っている方が望ましいですし、基本的な戦略を理解している必要があります。時代の潮流など外部環境に対する知識もあった上で、その中におけるその会社のポジションなども把握しておくべきなのだろうと思います。また主要人事も取締役会決定事項ですから、その組織の持つ人物感も理解しているべきです。
ちなみに、それらに加えて、何より会社にとって大事なのは理念ですので、その会社の理念もしっかりと覚え、経営陣がその理念からずれたことをしていないかも問い質せるようにしたいところです。

3.株主の代表であるという意識を持つ。
社内では当たり前の常識でも、外の人間からすればよく分からないことがあります。分からないことがあれば素直に経営陣に説明を求めてよい。その質問をされることで経営陣にとってもは気づきがあります。つまり、社外取締役は、株主の代表のつもりで、どんどん指摘&質問してもよいのだろうと思いますし、その上で、株主の責任(思い)を背負って、企業価値の最大化に全力を尽くす必要があります。

4.投資の意思決定に関与する。
忘れてはならないのは、社外取締役はその会社の経営陣そのものだということです。経営は、複雑なものです。経営陣として複雑で不確定な状況の中で、的確な意思決定をしなければなりません。その覚悟が必要なのだと考えています。
よく何かの分野に特化した専門家を社外取締役に置くケースがあります。その専門分野の部分を通して経営の議論に参加できるのならよいのですが、経営という視点ではなく本当に自分の分野だけの助言であれば、それは顧問やコンサルタントといった肩書のほうが良いケースもあります。あくまで経営チームに入るのだから重要な意思決定をする責任を担います。
では、「経営とは何か?」という問いに答えるならば、僕は「投資の意思決定」だと考えています。事業の推進、撤退、主要人事、すべてが投資の意思決定です。したがってその投資の妥当性を議論できなければなりません。また、取締役会は決定事項を承認する場ではなく、結論が出ていないものを議論し決議する場であることが望ましいと思っています。その議論ができなければ社外取締役としての本来は資格が無いのだろうと思います。

5.自分事化する。
しつこいようですが、社外取締役といえどもその会社の経営層です。すなわちその会社の命運を自分が背負っているという覚悟が必要です。その会社が本当に良い会社になるように自分事化して全力で取り組む。人は自分で作ったものではないとなかなか自分事化できないものです。例えば経営者が社員に経営者目線を持てとか、危機感を持てとか、当事者意識を持てとか、発破をかけたりしますが、それも難しい話です。社員は経営者じゃないから。そう考えると社外取締役という外から来た人間が、自分事化しろといってもなかなか難しい話なのですが、ただ、プロフェッショナルであるなら、引き受けた以上は、その会社の問題を完璧に自分事化する必要があります。これは本当にやばいと思う決断を経営者がしそうになったら、体を張って止めることも時には必要なのだと思います。

6.応援する。大好きである。
上記で書いたことと一見矛盾するようにも聞こえますが、自分自身が本気でその会社の経営にコミットすると、時に自分のセオリーや判断では、そのままではうまくいかないかもしれないと思う意思決定を承認しなければならないこともあります。もちろんそうならないように喧々諤々とやるのは良いのですが、本来経営には正解というものがありません。仮に少し違うなと思っても、代表取締役の信念が勝ればそこに乗っかる覚悟も必要です。時には皆が反対しても、自分だけは全力で応援するべき時もあります。孤独な経営者が誰にも正解が分からない決断を後押ししてくれる人物の存在によってどれだけ勇気づけられるか。その会社にとって何が正しいのか、そこにはその会社に日々接している経営者だからこそ当人にしか見えない世界があります。
だからこそ、もともと大好きで応援したい会社や経営者でないと本来は社外取締役を引き受けてはいけないのだろうと思います。

以上が、社外取締役の役割と心構え6か条です。

では、どういった経験を持つ人が、社外取締役に向いているのか?ということを考えてみたいと思います。例えば、3パターン挙げてみました。(なお、こちらも原則、前提条件は上場企業の経営経験がある人、または既に上場企業の社外取締役経験がある人が望ましいと思います。)

1.目指している方向で、少し先を走っている会社の経営者。
会社というものは、どれだけ自分の会社を特別にしようと思っても、成長の過程で意外と似たような問題にぶつかるものです。
であれば、その会社が今後起きるであろう問題を先に経験しており、それに対して少ない情報や短い時間の中でも、適切なアドバイスを的確にできるという意味では、自分の目指す方向の少し先を行っている会社の経営者に頼むと良いと思います。例えば、ITの世界でいえば、3年~5年先ぐらいでしょうか。あまり先を行きすぎても嚙み合わないのではないかと思います。この場合の「先」というのは基本的には売上といった分かりやすい数字の規模であることも多いですが、必ずしもそれだけではなく、社員の規模だったり、事業の多様性だったりと、いくつかの観点があるかと思います。

さらに、経営の意思決定に加わるわけですから、経営経験のある方であることが望ましいです。ただ、経営に近い立場であれば、必ずしも経営者そのものではなくてもよいかもしれません。例えば、創業者は得てして、勘だけを頼りに経営している天才肌の方もいるので、そういったタイプよりは、むしろ側近の経営層や創業社長ではない社長のほうが、助言し慣れているという観点から良い社外取締役になるのではないかと思います。

2.バックグラウンドに専門性がある方。
社外取締役は複数名で構成するようになってきましたので、そう考えたときに、チームという視点で経営力を高めていくことも求められます。その場合、専門性を持った社外取締役というのも良いのだろうと思います。例えば法律的観点、例えば財務的観点、あるいは今ピンポイントで抱えている課題が海外展開であれば、そこに詳しい専門家とか、あるいはM&Aを積極的に行うのであればそういった専門的知識がある方です。ただし、前述したように、専門性だけであれば、肩書は顧問で十分ですので、やはり経営視点があるのか、また経営チームの一員として本当に良いチームが作れるか?という観点が重要になるのではないかと思います。

3.社外取締役という職能を本業にしている人。
言うまでもなく社外取締役は、取締役会にちゃんと出席しなければなりません。出席率が問われます。そのように考えると、本来現役の経営者は忙しいので、それほどたくさん受けられないものです。最近は複数社の社外取締役を受けることをあまり推奨されていません。
そんな中で、会社の経営が本業ではなく、複数社の社外取締役を務められている方、すなわち本業が社外取締役という方がいます。実は、こういう方は短時間で良い助言を与えてくださいます。取締役会をたくさん見てきた経験から、他社の事例をもとに色々話してくれるので非常に参考になります(もちろんNDAに反しない範囲で)。本来取締役会で話されていることは表にでない貴重な情報ですので、複数社のそういう経験があること自体が貴重なのです。つまり、社外取締役を職業としている方は、なるべく多くの社外取締役を引き受けることで、それぞれで良い助言をしやすくなり、良い循環になるというわけです。

以上、社外取締役に向いている人のパターンを3つ挙げました。

そして、さらに追加でもう1つ問いとして考えてみたいのが「では、在任期間はどれぐらいがよいのか?」というものです。

これは、まだ自信を持って言い切れる感じではないのですが、僕は現時点ではベンチャーであれば、2年~5年ぐらいがいいのではないかと思います。
2年だと、短すぎてその会社を理解するのに十分ではないとおっしゃる方もいるのですが、とはいえベンチャーの場合は、2年も経つと会社も大きく変わってしまいます。また、ビジネスのスピードが速い昨今では外部環境もガラッと様変わります。であれば、初年度からしっかりと事業内容もキャッチアップして、何かしらの助言をしなければなりませんし、もともとその会社が目指す少し先の世界を既に経験していたり、自分の専門性があったりするからこそ、日常的にはその会社との接点が限られる中でも、何らかの的確な助言をし得ることができるのだろうと思います。だから2年もあれば貢献するには十分なのではないかなと。一方で最大で5年としたのは、社外取締役はあくまで外部からの目線だからです。長くその会社の経営に関与していると外部的な視点は薄れてくるかもしれません。だからこそある程度の任期で変わっていくのが健全なのだと思います。ただ、会社の成長とともに社外取締役も経営陣として成長していれば、長く務めさせていただくなんてケースもあるのでしょう。

以上、ここまで、現時点で僕が考える「社外取締役に求められる役割と心構え6か条」と「社外取締役に向いている人3パターン」と「社外取締役の適正在任期間」について書いてきました。

そして、さらに付け加える視点があることに気づきました。それは、結局のところ社外取締役をより有効に機能させるには、実は会社側の努力にかかっているということです。どういうことかというと、日々様々な意思決定が現場では行われている一方、定例の取締役会が行われるのは通常月1回です。社外取締役が月1回、数時間の参加のみで重要な意思決定ができるようにするためには、会社側から日頃の情報共有をどれだけできるか、必要な判断材料をいかに提供できるかにかかっています。

最後に、カヤックが社外取締役の方々により活躍していただくような工夫できているかというとまだまだです。また、僕自身も他社の社外取締役として上記であげた条件を、とてもとても完璧にはできていません。ただ、自分のことを棚にあげて書いてみました。
日々精進して、成長して、このテーマで、またいつかアップデートした記事を書いてみたいと思います。

今回は長くなりましたが以上です。

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