美意識の正体について 山口周さんと 対談してみました | 面白法人カヤック

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2018.07.23

#面白法人カヤック社長日記 No.43
美意識の正体について 山口周さんと 対談してみました

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今回の社長日記は、『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』の著者である山口周さんとの対談コンテンツです。

先日の社長日記「ビジネス書大賞の審査員をしたので 今回は社長書評です。」で、この本についてとりあげたところ、読んでみたら感激した! という方が多くいて、トークセッションを開催することがトントン拍子で決まりました。そこで今回は、その対談の中から、僕が山口さんから聞き出したかったいくつかの問いのうち、下記の2つに注目し、まとめています。

「そもそも美意識やアートとは何なのか?」
「そのアート感覚や美意識はどうやったら身につけられるのか」
です。

では、お楽しみください。

アート感覚、美意識とは何なのか?

柳澤
:まず、この本を読んだ人の反応が大きく3つに分かれたとおっしゃっていましたね。

山口
:はい。ひとつめは「同じことを考えていたのを言葉にしてくれた」というもので、アーティストやデザイナーの方からいわれることが多いです。ふたつめは「モヤモヤしていたけど方向性が見えた」というもので、経営者からよくいわれます。みっつめは「よくわかりませんでした」というもので、コンサルタントと丸の内系のサラリーマンが多いですね(笑)

柳澤
:(笑)「よくわかりませんでした」という人にほど読んでいただききたい内容だと思うんですが、なかなかそうもいかないものですね。実際は、読まなくてもすでに美意識のある人が感動して、ほかの人に勧めているんでしょうね・・・。でも、最近思うのは、誰も思いついてないことを書くよりも、誰もが日頃感じていることを言語化することで「そうそう、よくいってくれた!」という共感が生まれ、そういうものが結果的に広まるのでしょうね。

山口
:本には書かなかったんですけど、この本を書いた動機として、強烈な原体験があるんです。戦略コンサルティング会社にいた頃、大手携帯電話会社と取引がありましたが、携帯電話の差別化は各社とも全然できていなかった。2007年当時、どの会社の製品もほとんど同じでした。マーケティングのプロたちが、どんなものが好きか消費者に聞いて、経営学のセオリーを駆使するほど、似通った製品ができあがる。そうしているうちに、市場調査なんてほとんどやらないAppleが市場の半分くらい持っていってしまった。20世紀から21世紀初頭は、論理的思考ができて、経営学のセオリーを使いこなせる人たちが活躍する時代でした。しかし、それだけでは勝てなくなるのだと、強烈に感じました。

10年経った現在、他社がiPhoneに追随して、外見はどれも見分けがつかなくなっています。でもAppleの時価総額に他社はなかなか追いつけない。デザインや機能は簡単に真似できるけれど、その背後にあるストーリーは容易にはコピーできませんから。会社やブランドのストーリーをどのようにつくりだすか。それは、どんな文学作品をつくるかと同じですか
ら、経営者の文学的なリテラシー(知見)が問われるようになっていると思います。パタゴニアなどは良い例だと思います。

柳澤
:なるほど。ストーリーをつくる能力、これをアートや美意識と置き換えるとわかりやすいですね。つまり、これからの時代はストーリーのクリエイティビティこそが競争優位性を生み出すのであり、これをアート感覚と捉える、それが経営に求められていると。

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経営におけるアート・サイエンス・クラフト

柳澤
:それにしても、本の中にある「アート・サイエンス・クラフト」の3つが大事という話はよかったです。そのあたりもう少し聞かせてください。

山口
:もともとは経営学者のヘンリー・ミンツバーグの説ですが、僕もすごくいいフレーズだと思っています。ただ、たまに僕の本を読んで「サイエンスじゃなくて、アートが重要なんですね」っていってくださる方がいるのですが、そうではなくて、アート・サイエンス・クラフトのバランスの見直しが大事なんだと。会社としてのストーリをつくったり、自分はこういう新しいものを世の中に打ち出していきたいんだというビジョン。こうしたアート的なセンスがなければ、会社は成り立ちません。そして、それが財務的、技術的に可能なのかロジカルに検証していくサイエンスの側面も必要です。さらに、そのビジョンを形にしていく実行力、実現力としてのクラフト。

柳澤
:そして、会社では、どうしてもサイエンスとクラフトが強くなってしまう。でもこれからは、相対的にはアートが強くなるよと。そういう話につながっていくんですよね。この論理は、非常にわかりやすかったです。

どうやったら美意識は身につけられるのか?

柳澤
:とはいえ、もう少し、山口さんのおっしゃるアートや美意識というものを言語化すると、どういうものになるんでしょう。また、どうやったら美意識は身につけられるのでしょう。

山口
:一番大事なのは、やっぱりワクワクする感じだと思うんですよ。美意識を鍛えるというと、よく誤解されるのですが、「正しい美意識」というのがどこかにあって、名作といわれる芸術の良さがわかるように感性を鍛えることだと。僕がいいたいのはそういうことじゃないんです。自分がワクワクするものを見つける、そこに軸足を乗せて、自分で意思決定していくということなんです。

柳澤
:なるほど。「ワクワクする感じ」。これはまた新しいキーワードが出ましたね。確かに、何が美しいか、美しくないかは、人によって感性は違うわけで、自分にとって何がワクワクするかを突き詰めれば、おのずと美意識につながる。これは、直観的にその通りという気がします。逆にいうと、どこか心の中でウソをついて、ワクワクしてないことをしていると、美意識のない人間になってしまう。そういうことでしょうか。

ただ、僕は、美意識を身につけるためには「ワクワクする感じ」を突き詰める以外に、もうひとつ方法があるのではないかなと思っているんです。それは、オリジナリティというものを常に意識して追求することなんではないかなと。

美学という言葉を何かで以前調べたら「世の中のみんながしていても、自分は『しない』と決められること」といったことが書かれていたんですね。人に流されないと。つまり美意識とはオリジナリティのことだと思ったんです。常に人と違うオリジナリティのある選択をしていけば、自然と美意識は身についていくのではないかなと。そもそもアートの世界は二番煎じが認められない世界ですし。

というのは、何が正義で何が悪かはなかなか定義できないように、何が美しいか、美しくないかということも絶対的な定義はできない。ただ、オリジナリティがあるかどうかは、なんとなくわかる。善悪の価値観はおかしくても、オリジナリティを追求している人は最終的には美しい世界に向かっていき、美意識を身につけることにつながってくるのではないか。そんな風にもなんとなく思うのです。

山口
:難しい話ですね。僕は、オリジナリティという言葉自体に、オリジナリティの要素が入っていない気がするんですよ。オリジナリティって、他者と比べて、相対的な位置関係を規定する概念ですよね。だから、オリジナリティを求めるといった時点で、すでに他者を意識している。だから、本当の意味でのオリジナルって、ないんじゃないかと。そう考えた時、どこまでが引用で、剽窃で、昇華なのか、どこからがオリジナルかという境界線は引きづらい。

「美意識」は後天的に身につけられるのか?

柳澤
:なるほど。他者を気にせず自分だけの価値観を突き詰めるのが美意識なのに、オリジナリティを追求するという思考は、結局他者と比較してしまうじゃないかと・・・なるほど。こりゃ一本とられました。そのとおりですね・・・。

ところで、そもそもの問いなのですが、美意識とは、生まれ持ったものなのか、後天的に身につけられるものなのか。それはどう思います?

山口
:年代にもよると思うんです。子供であれば、いろいろなものに触れさせて、感性を認めてあげることで、美意識は育まれると思いますね。日本では、美術や音楽の授業というと、世間で名作とされるものを頭で覚えなさいという教育になりますが、「自分はこんな絵が好きなんだ」「こういう絵を描きたいんだ」という個性を認めてあげることが大事だと思います。

デザイナーの深澤直人さんと話していた時、面白いなと思ったのは、深澤さんも「センスはどうやったら鍛えられますか」って、よく聞かれるらしいんです。センスに良い悪いはなくて、センスというのは、どこまでもその人のセンスなんです。その人がいいと思うもの、素敵だと思うものを世の中に出していく。そこに結果として普遍性が生まれる。ですから、センスを鍛えるのではなく、自分の中にセンスを見つけることが大事だと。

柳澤
:その話を聞いて、こんなことを思い出しました。昔、僕らはArt-meterという絵の測り売りのサービスを運営していたんです。今は東急ハンズさんに事業譲渡してしまったのですが、当時、絵を販売するショップが自由が丘にあって、いろんなお客さんがきたんです。その時に感じたことですが、日本人はどうも自分の好きな絵を選ぶのが苦手なんですね。どれが売れてるんですか? と聞かないと決められない。一方で、外国の方がくると、自分が好きな絵はこれだと自信を持って選ぶんですね。たとえ人気がない絵でも。これがまさにワクワクする感じのことですよね。自分がこの絵がいいって思えば、それでだけでいい。つまりアートとはそういうものであり、外国の方が好きな絵を選んでいたのは、自分の中でいいと思うものを見つける感覚を、学生の頃から授業で教わってきたからかもしれません。

ただ、日本にしても外国にしても、大人になるにつれて、分別がついて、美意識やセンスを他者の評価に頼るようになってしまう。そういう傾向は共通であるかもしれませんね。そして、それは会社の中でもよく起きていることなのではないでしょうか。

山口
:あるベンチャー創業者と話していたんですが、会社が成長するにつれて、東大卒やMBAホルダーといった優秀な人がたくさん入ってきて、「ロジックがおかしい」とか「経営のセオリーと違う」とかいろいろいわれるらしいんですね。それで、つまらないなと思いながらも、正しいはずの施策を実行したら、ことごとく失敗したらしくて。逆に、周囲の全員が反対するけど「これ絶対面白い」と思うものをやるとうまくいく。その切っ先の鋭さが、組織の規模が拡大するにつれ、失われていく傾向はあるのかもしれません。

美意識を引き継いでいくためには

柳澤
:それから、実定法主義と自然法主義、この話もすごくよかったですよね。実定法主義の人は、明文化された法を犯していなければありと考える。それに対して、自然法主義の人は、自分なりの価値観に則って、ありかなしか決める。つまり、明文化されたルールだけを根拠とするのか、その決定が「真・善・美」に則るものかどうかを重んじるのか。美意識を持つということは、他人の決めたルールに価値観をゆだねすぎてはいけないということでしょうか。

山口
:僕、やっぱりイギリス人ってすごいなと思うんですが、イギリスは非成文憲法、つまり憲法と呼ばれる文書は存在しないんですね。もちろん成文法もありますが、法律の上位概念は、習律や慣習、つまり言語化されていないけれども、コミュニティで共有されている良いこと、悪いことという、いわば空気のようなものです。実定法廷主義は、テキストに書いてあるから良い・悪いという判断になりますが、それだけに頼りすぎると、ある種の知的な災禍を招くのではないかという気がしています。

経営理念も同じで、テキストに頼り過ぎてしまうと危うい。本当に強い組織って、なんとなく日々のやりとりの中で、空気として「ここから先はダサいよね」「これはうちの仕事の流儀じゃないよね」というものが存在すると思うんですよね。

柳澤
:たしかに、任天堂のように社是がないとか、経営理念がないということを強味にしている会社もありますものね。

美意識を磨くためには、ルールを言語化しすぎないで自分で考えるということも重要な要素なのですね。

山口
:能の世界の言葉で「師匠を見るな、師匠の見ているものを見よ」というものがあります。良い例がGoogleで、経営陣がペンタゴンと共同で人工知能の軍事利用をしようとした時、従業員が署名を集めて反対したんです。能の世界では、世阿弥が見ていた世界を、何百年も師匠たちが見ようとしてきたからブレない。Googleも、ラリー・ペイジやセルゲイ・ブリンの行動だけ見ていたら、反対運動は起きなかったかもしれません。でも、創業当初に経営者が掲げたGoogleらしさというものをみんなで見ていたからこそ、人工知能をミサイルに搭載する共同研究に対して、「これおかしくないか」「ちょっと邪悪になりかけていないか」という声が現場から上がった。Googleらしさ、いわばイデアのようなものを共有できているからこそだと思うのです。

柳澤
:「師匠を見るな、師匠の見ているものを見よ」なんだか非常にいい教えですね。なんかこの方が、大切にしている考えがしっかり弟子につながっていく気がする。美意識というものを代々引き継いでいけるヒントがあるような気がします。

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今回の社長日記は以上です。

対談を通して、冒頭に申し上げた「そもそも美意識とは何か?」そして「どうやったら美意識を身につけられるのか?」について、ヒントをいただいたと思いますし、最後におまけとして、「どうやって世代を超えて美意識は引き継がれていくのか?」ということのヒントもいただいたように思います。

山口 周氏

コーン・フェリー・ヘイグループ株式会社 シニア・クライアント・パートナー
1970年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部哲学科卒業、同大学院文学研究科美学美術史学専攻修士課程修了。電通、BCG等を経て現在コーン・フェリー・ヘイグループのシニア・パートナー。(株)モバイルファクトリー社外取締役。(株)ラブグラフアドバイザー、一橋大学経営管理研究科非常勤講師。(株)ライプニッツ代表。

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