2018.09.28
#面白法人カヤック社長日記 No.45偉大な経営者の伝記を読んで思った「老害」と「組織の永続性」
少し前ですが、社長日記でビジネス書の書評を書きました。
思ったより好評でしたし、書評が本を読むきっかけになったというお声もいただいたので、今後も時々は書いてみようかなと思います。
今回取り上げてみるのは、2冊の本です。
「カリスマ」
「江副浩正」
それぞれ、リクルートの創業者である江副浩正さん、ダイエーの創業者である中内㓛さんの伝記です。
この二人の接点。
今の若い方々は、ご存じないかもしれませんが、かつてダイエーがリクルートの筆頭株主だった時期がありました。
リクルート事件のあと、江副さんが保有していた全株式を譲渡し、ダイエーがリクルートの筆頭株主になったというニュースは、当時の僕には、リクルートがダイエーの傘下に入ったという風に聞こえました。当時、まだ学生で、リクルートのイメージは進学や就職案内の冊子を読んだり、メディアを通じて知る程度でしたが、それでも、これは意外なことでした。
そして今、経営者になった視点で考えると、会社を売却するということは非常に大きな決断ですので、その背景に、どのような経緯があったのかは、別の意味で非常に興味深く感じます。
2冊の本を読むと、それぞれの視点で経緯が書かれており、二人の経営者の出自や、目指していた方向、当時の状況や思惑などが垣間見え、より理解を深めることができました。
ちなみに、同じ伝記でも、自伝の場合は自分自身で書きますから、読み終わった後には、その人を好きになっちゃうぐらい、いいことばかり書かれていますが、一方で、第三者が書く伝記の場合、著者のスタンスによって、どの側面を強調して描かれるかが異なります。
江副さんの本は、著者のお二人がリクルート社の人間と聞いて納得する読後感で、ちょっとした文章の節々にも、創業者である江副さんへの愛を感じました。
一方で、中内さんの本は、ノンフィクションライターの方が書かれています。こちらの本も、中内さんに対する著者の愛情は感じましたが、それはどちらかというと、希代の人物に対する人間としての深い興味であり、身内としての愛とはちょっと違いました。そして、中内さんが数々の決断をするに到った背景にある、本来ならば本人にしかわからないであろう感情が、独自の考察によって、再現されていました。
人間の決断や行動というものは、損得だけではなく、様々な感情が入り混じって行われるものだと思います。ですから、そうした感情の機微や葛藤まで書かれた本は、読んでいて面白い。ただ、あくまでも第三者の推測や分析で書かれていますので、本人が読んだら、納得がいかないという感想になるのかもしれません。
つまり、読み物として面白い伝記は、本人の存命中はなかなか出せず(なぜなら本人に怒られますから)、死後になって初めて出てくるのかもしれません。そして、その時にどの部分を強調して書かれるかは、生前にその人がどれだけ人徳があったかにかかっているのかもしれません。
そもそも経営者というものは、結果がすべてですから、現役のうちは、結果さえ出していれば、ある程度は評価される職能ですが、死して賞賛されるかどうかは、やはり日頃の行いにかかっているんだろうなと思います。
その意味で、もうひとつ興味深かったのは、二人の偉大の創業者の共通点として、最後は、組織にとって老害になったと描かれている点です。
どんなにすごい経営者だったとしても、晩年に会社にとって老害になることはあります。
自分が老害になったことに気づいて、自ら一線を退くのが一番良いのでしょうが、人は自分自身のことを客観的に判断できないもので、自分が老害だという自覚を持つことは、なかなか難しいのだろうと思います。
でも、もしも自走する会社をつくっておけば、老害になったとき、自分がちゃんと追い出されるという自浄作用が働きます。つまり、自分がつくった組織によって、老害になった自分が追い出される。そういう組織こそが、強い組織であり、そういう組織をつくることができたなら、その組織は未来永劫続くでしょう。逆に、そこまでの組織をつくれなければ、その組織はどこかで消えていくということなのかもしれません。
とはいえ、創業者としては、いつか自分が老害になり、自分がつくった組織に追い出されるというのは、なかなか寂しい話です。追い出されたあとも、創業者を全否定することで、新たな求心力が生まれたり、継続していく企業文化に、なんらかの寄与が残せればいいのかもしれませんが、それもまた、究極的には、自分や仲間が設計し、やがて誰かに託していくことなのかもしれないと思います。
老害になる前に、継続していく組織に対して意志を持つこと。そして、その通りになるかどうかは、これも日頃の行いにかかっているのじゃないかと思います。
ちなみに、カヤックという会社は、自分自身を含めて、老害になったときには、ちゃんと外に送り出される組織になればと考えています。創業者にも、その後に誰かが継承していくにしても、全否定する必要もなければ、神格化する必要もない、ただ、面白法人という言葉に魂を込めて、会社という作品をみなでつくりあげていく。そのことを続けられる組織がつくれればと思っています。
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