「励ましのサイエンス」総集編 一年かけて見つけた励ましのフレームワーク | 面白法人カヤック

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2022.09.30

#面白法人カヤック社長日記 No.109
「励ましのサイエンス」総集編 一年かけて見つけた励ましのフレームワーク

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誰かの言葉に肩を押された。知らずに誰かを勇気づけていた。

そんな経験は誰にでもあるのではないかと思います。

もし、そこになんらかの法則や方法論を見出すことができたら、もっとたくさんの励ましが社会を行き交うようになるのではないか。そのためには、いろいろな人に話を聞いてみよう。

そんな考えで昨年から「励ましのサイエンス」と題してインタビューを重ね、先日、最終回を迎えました。

・・・ここで終わるはずでしたが、なぜか髪型の話に終始しており、「励ましのサイエンス」は解明されないまま終わっている。それはそれでいいかと思っていたのですが、リーダーシップ開発や組織変革を専門にする中土井僚さんがひょんなことから協力してくれることになり、おまけの最終回にしてようやく、励ましのフレームワークにたどり着くことができました。

そして、これまでお話を伺った15人の方のインタビューをKindleとして発売することになりました(リンクは末尾をご覧ください)。

一年かけて見つけた励ましのフレームワーク。どうぞお楽しみください。


やなさわ
この「励ましのサイエンス」を始めたのは、第一回の記事に書いたように「やなさわさんは励まされ力がありますね」と自分ではまったく認識していなかったことを言われて、そうなのかな? と気になったから。そして、そもそもどうやったら人を励ませるのか? あるいは自分が励まされやすくなるのか? その方法論を解明したいと思ったからです。

この一年間、14人の方々へのインタビューを終えたので、振り返りとまとめをやらなきゃなと思っていたんですが、前回記事で「ハゲを励ます方法」とオチもついたし、まとめはもういいかなーぐらいにあきらめかけてたんですが、そしたら、たまたま中土井さんがコメントをくれて、探索の旅に付き合ってくれるというので(笑)。

中土井僚(敬称略)
私の専門領域ですからね。現時点では、どんなことが見えてきているのか、教えてもらってもいいですか?

やなさわ
それが大して法則らしい法則はないんですよ。ただ、これまで14人の方にインタビューさせていただいて、共通すると感じたことが二つだけ。

それは、禅問答のようですが、誰かを励ましたいと思ったら、励まそうと思ってはいけないということ。それから、励ましは、必ずしもすぐに効くものではないということです。

それが法則だとすると、行動としてはたったひとつ、誰か励ましたい相手がいるなら、定期的に声をかけ続ける。定期的にコンタクトを取れば、そのどれかが励ましになるかもしれない。それを気長に待つしかないなと。

サイエンスというからには、再現性のある法則性を見出したいけど、そのくらいの法則しかまだ見えていない(笑)。

励ましが発生するマトリクスを解明してみた

中土井
私は経営者であると同時に、リーダーシップ開発・組織開発の分野でリーダーシッププロデュースやファシリテーターをしており、いわば人を励ますことが仕事なので、興味深く読んでいます。今日はこの日のために、独自のスライドをつくってきました。

やなさわ
すごい。

中土井
まず再現可能かどうかということを検証するために、励ましの発生パターンを分類してみました。

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その励ましが意図されたものか、そうでないかを縦軸。そして励まされる相手のレセプター(受け入れる力)が開いているか、閉じているかを横軸に取ります。

Aの「啐啄(そったく)同時の奇跡」というのは、意図的に励まそうと言葉をかけて、相手のレセプターが開いている幸運な状態。

ひな鳥が孵化する時、卵の殻を内側からつつくことを「啐」といいます。それに合わせて親鳥が外から殻をつつくのが「啄」。そのタイミングが一致することで、殻が割れて、ひな鳥が誕生することを「啐啄」と言います。このタイミングがうまく合わないと、ひな鳥はうまく孵化できないこともあります。

そのタイミングが合わず、こちらが励まそうとしても、相手のレセプターが閉じていたらどうなるか。単なるお節介で、Bの「拒絶の痛み」となって跳ね返ってきてしまう。

一方、レセプターが開いていても、励ます側がそうと意図していないケースもあります。Cの「すがった先の藁(わら)」という状態です。何気ない言葉を励ましとして受け取るようなケースです。そもそも励ました本人が覚えていないというエピソードは、これに相当するのだろうと思います。

そして、そもそも励ます意図もなければ、相手のレセプターも閉じている。これはDの「無関心な関り」で、何も生まれません。

やなさわ
なるほど。

中土井
この中で、C・Dの領域、つまり励まそうと思っていないケースは、おそらく再現性を解明することは難しいと思います。過去のインタビューを見ると、その本人にとっては励ましにはなっていても、相手がそう意図していなかったり、そもそも覚えていないといったケースが多い。この再現性の解明に手を出すのは辞めて、他の領域に注力した方がいいように思います。

またB・Dの領域、つまり受け取る側のレセプターが閉じていて、励ましを求めていないケースは、いくら頑張っても伝わらないということになるのではないかと思います。

Aの領域、つまり励ます側が励ましたいと思っていて、受け取る方も励ましを必要としている。再現性を解明するには、このAのケースに絞る方がいいと思います。

やなさわ
たしかに。

中土井
ただ、レセプターが開いているかというのは、時間軸も関わってくると思います。ある時点ではレセプターが閉じていたけれども、その時にかけてもらった言葉が、時間が経ってから励ましとして心に届くケースがあるからです。

やなさわ
なるほど。「励ましは必ずしもすぐに効くものではない」という冒頭でお話した僕の気づきは、そういうことですね。その時点では拒絶されてしまうけれども、後になってから、励ましとして作用すると。

励ましの根底にあるのは「Yes」という存在承認

中土井
では、Aのようなケースで励ましが成り立つためにはどうすればいいのか。

こちらも相手を励ましたいと思っていて、相手も助けを求めている。でも、たとえば落ち込んでいたり、鬱状態にある相手に励ましの言葉をかけるのは良くないとも言われますよね。

やなさわ
却ってプレッシャーになってしまうケースですね。

中土井
そうです。励ましが整理するかどうかは、「Yes, and」と「No, but」の違いではないでしょうか。これはコミュニケーション領域でよく使われる言葉です。

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中土井
「Yes, and」というのは、相手の話をまずは受け止める。肯定して、そこから前向きな未来の話につなげていく話法です。一方、「No, but」というのは、相手の話をまず拒絶してしまう。

具体的には、たとえば悩みを打ち明けられた時、「そうなんだ、それはつらいね。じゃあ・・」というのは前者。「そんなこと弱気なことじゃダメ。もっとしっかりしなさい」というのは後者でしょう。

やなさわ
なるほど。「自信がないから、挑戦できない」という人に対して、「そんな弱音を吐いていちゃダメ。もっと自信を持ちなさい」と励ますのは・・。

中土井
それは、良かれと思って「No」から入ってしまうケースですよね。悩んでいる人だって、そんなことはわかっているんです。だったら、まずは「自信がないんだ。わかるよ」と受け止めてあげることが大事だと思います。

これまでのエピソードを見ても、励まされる時には、必ず最初に「Yes」というメッセージが伝わっている。

「Yes」というのは、存在そのものを承認することだと私は捉えています。「Yes」があって、初めて「and」という未来の話が活きてくる。

落ち込んでいたり、鬱状態にある相手に励ましの言葉をかけるのは良くないというのは、「Yes」という前提が抜け落ちてしまうからだと思います。「そうか、つらいんだね」と相手の現状に寄り添うことなく、「がんばれ」とか「こうした方がいいんじゃない」という問題解決の話を始めてしまう。

やなさわ
ただ話を聞いてほしいだけなのに、相手の言葉に耳を傾けず、問題解決の方法をとうとうと話してしまうのは、やっちゃいけないことあるあるですね。僕も身に覚えがあります。

中土井
やなさんは「Yes」と伝えることがすごく上手だと思いますよ。それはきっと、なんでも面白がるという姿勢から来ているんだと思う。「面白い」という表現を通じて、相手のあるがままを承認している。

やなさわ
そうなのかな・・・。

中土井
鎌倉・建長寺で開催されたコクリ!キャンプで、生花を生けるプログラムがありましたよね。僕、あの時、やなさんのチームの後ろだったんですが、衝撃を受けたんですよ(笑)。

メンバーが生花にチャレンジしている時、「いいよいいよ、好きにやっていいよ。フォローするから」「いいじゃん、面白いね」と心から思って言っているのが伝わって。そんな風に面白がることは、「Yes, and」そのものだと僕は思いました。まずは「Yes」と言ってもらえることで、相手は知らないうちに励まされる。実際、やなさんのチームがコンペで優勝したんですよね。

やなさわ
なるほどなー。

ついに「励ましのサイエンス」が解明される?!

中土井「Yes」で相手のあるがままを承認した上で、未来の可能性について背中を教えてあげることが励ましなのだとすると、その未来の方向性は、さらに4つに分類できると思います。

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縦軸は未知と既知。未知は、本人が気づいてないことや全く新しい視点やアイデアで励ますという方向。既知は、本人が自覚していること、自分の強みだと思っていることや、既に取り組んでいることなどをしっかり背中を押す方向です。そして横軸は、未来と過去、その本人の状態に合わせて過去をすっかり認めるのか、未来に向けて励ましていくのか。どちらかというとエネルギーが弱っているときは過去に焦点を合わせた方がいいでしょうか。

たとえば私がやなさんを励ますとしたら、「人のことを面白がることができるの、すごいですよね」というのは「Ⅳ. 自己承認の後押し」です。それは、やなさんの過去に根拠があって、それをやなさん自身が気づいているから。一方、たとえば「励まされやすいタイプですね」と言われた先ほどの話は「Ⅲ. ポテンシャルの発掘」です。過去の言動に基づいているけれども、本人にとっては未知の力をフィードバックすることで励ますというものです。

「Ⅱ. 背中押し」というのは、たとえば「君の実績なら新しい会社をつくってもうまくいくんじゃない?」というように、自分でもわかっている過去の実績を裏付けに、未来に向けて背中を押すこと。

そして「Ⅰ. 未知の世界との遭遇」は、自分では思ってもみなかった可能性を気づかせてくれる励ましです。「励ましのサイエンス」で紹介されていた「ジェーン・スーさんの場合」「中嶋愛さんの場合」のようなエピソードなどは、これに当たると思います。

やなさわ
すごく面白いです。前提として「Yes」の姿勢は持ち続けた上で、誰かを励ましたいなら、4つの励ましの方向感を常に意識するということですね。

中土井
対人支援に取り組む人に出会う中で、あるアメリカの方から伺った「愛の定義」として伺った言葉が私の土台になっています。

「あなたが誰であろうとなかろうと、そのままのあなたであってよし。そして、あなたは私やあなたが想像するよりはるかに素晴らしい。そして、そうであっても、そうでなくてもよい」

誰かを励ますのに、必ずしも「and」は必要ではない。左側のⅢ、Ⅳのように、ただ存在が承認されているだけでOKということもあると思います。

やなさわ
僕は、Ⅲも「and」にも聞こえるんですよね。本人が気づいていないから。

中土井
発見された瞬間、未来から現在になるのかもしれませんね。

やなさんの「面白い」という言葉とスタンスは、僕、人間讃歌に聞こえるんですよ。単に面白いかそうでないかの評価を下しているのではない。願いを感じるというか。

「つくる人を増やす」というカヤックの理念も、きっと人類全体を励ましたいんだろうなと(笑)。人間のポテンシャルはどこまで解放できるんだろうかということへの強烈な好奇心があるんじゃないかな。カヤックではブレストを大切にしているそうですが、ブレストという方法論にたどり着いた喜びが大きいのも、そこなんじゃないですか。

やなさわ
「Yes, and」における「Yes」は人間讃歌そのものですが、「and」を見つけるには、いろんな見方ができないといけない。視野が柔軟でなければ見つからない気がするから。だから、やっぱり「and」を見つけるためにもブレストが大事なんだな。

中土井
一周回っていつもの結論に(笑)。

やなさわのまとめ

中土井さんのフレームワークはすごく面白かったです。この四象限を僕なりの言葉に置き換えると、こういうことなのかなと思います。

相手のすべてを承認すべし。
相手の視点をずらすべし。
相手の視界を広げるべし。
相手の思いを押すべし。

つまり、

まるっと受け入れ、ずらして、広げて、押してみる。

それをカヤック流に言い換えてみるなら、こういうことなのだと思います。

まるっと面白がり、ずらして、広げて、押してみる。

どうやったら人を励ますことができるのか。その人自身の持つ力に気づいて、面白く生きていくことができるのか。この一年、いろいろな人に聞きながら模索してきましたが、サイエンスとはいえないまでも、まがりなりにもまとめることができたのではないかと思います。中土井さん、ありがとうございました。

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